Japanese
獅子志司
2021年04月号掲載
2019年に公開した「絶え間なく藍色」がニコニコ動画で殿堂入りを果たし、昨年投稿された「永遠甚だしい」が海外のネット・ユーザーから高い評価を得るなど、今、急成長中の新世代ボカロP 獅子志司が4月7日に1stアルバム『有夜無夜』をリリースする。初期曲「有象無象も踊る夢」を皮切りに投稿順に収録された楽曲を中心とした全9曲は、ユーザーの反応を直に感じながら試行錯誤を重ね、自分だけの音楽を確立してきた獅子志司の歩みを感じられる1枚。獅子志司の初インタビューとなった以下のテキストでは、ボカロPとして活動を始めたきっかけをはじめ、影響を受けた音楽、各楽曲に込めた想いをひもときながら、自分の弱さを曝け出すことで伝えたかったアルバムの本質に迫った。
-ここ1年で獅子さんの楽曲の再生数が一気に増えて急成長していますね。
ありがたいですね。「絶え間なく藍色」から反応が増えてきたのを実感してます。だから最近、Twitterで何を言っていいかわからなくなっちゃってて(笑)。すごく見られると思うと、何も言えなくなっちゃうんですよ。
-軽はずみに発言できなくなってる?
昔は適当なことを言ってれば良かったんですけど(笑)。
-(笑)でも自分の楽曲が評価されることに対しては......。
そこは本当に嬉しいです。
-しかも、去年は「永遠甚だしい」が海外のネット・ユーザーからも注目されて。
びっくりしました。尊敬するEveさんも海外ですごく人気なので、同じように評価されたのは嬉しかったです。「永遠甚だしい」はアニメーションをしまぐち(ニケ)さんに作ってもらってるんですけど。自分でも、"この曲で本気を出したい"っていう気持ちを伝えたうえで、しまぐちさんも"めっちゃいい曲ですね"って言ってくれて作ったものなので、いろいろな人に観てもらえて、本当に救われたなと思いました。音楽人生をやれて良かったです。
-獅子さんの憧れの存在はEveなんですか?
はい。ボカロPを始めたのも、Eveさんとヨルシカさんの存在が大きいんです。もともとボカロPは聴いてたんですよ。そのなかで米津(玄師)さんが神様みたいな存在で。
-時代を切り拓いた存在ですよね。
そう、米津さんがチャートでバンバン1位をとってたのを見て、ボカロPってすごいなっって感じていて。そこからEveさんとかヨルシカさんを知って、こういう音楽を作りたいなと思うようになったんです。
-獅子さんから見て、ヨルシカとかEveのすごさってどういうところですか?
ヨルシカさんの曲はすごく響きますね。最近は勉強のつもりで音楽を聴くことも多いんですけど、ヨルシカさんに関しては、"このリズムかっけぇな"、"このアレンジいいな"とかじゃない。気づいたら、"やべぇ、今俺、主人公かもしれない"みたいな。そういう気持ちになるっていうか。
-ヨルシカの音楽には、曲の世界に引きずり込むような力がありますよね。
あのジャンルも好きですね。
-サウンド的にはギター・ロックっぽいものが好きなんですか?
はい。昔はシンガー・ソングライターをやろうとしてたんですよ。そこから路上ライヴをやったんですけど、そのときに心が折れてしまって。人前で歌うのは嫌だなと思って、引きこもるようになったんです(笑)。アレンジしてるほうが楽しいなっていう。
-シンガー・ソングライターになりたいと思ってたときは何を聴いてましたか?
秦 基博さんとかスキマスイッチさんとかを聴いてました。実は、その前にバンドをやってたこともあるんですよ。ヴォーカルの助っ人で呼ばれる程度ですけど。
-オリジナル曲ですか? それとも、コピバン?
コピーですね。L'Arc~en~Cielのカバーをやってました。そのときは目立ちたがり屋だったので、ステージの上に立つのが好きだったんです。
-ちょっと脱線しちゃいましたけど、Eveのほうはどういうところがすごいと思いますか?
ただただ羨ましかったです。作曲センスもすごいし、歌い手としても人気で。俺もこういう道を歩みたいと思って、自分でアレンジができたから、ボカロPとして曲を作りつつ、"歌ってみた"もやって、両方で始めてみたんです。
-なるほど。獅子さんは楽曲を投稿するときに、ボカロPとして初音ミク歌唱のものと、ご自身で歌ったものを発表しているのは、そういう経緯なんですね。
ボカロ・カルチャーは本当に最強だと思うんですよ。リスナーにすごく愛があるんです。歌い手っていう存在を持ち上げてくれる力がすごいというか。
-自分が認めたものに対しての熱量が高い。
そうなんですよね。だからボカロ曲も大切にしたいんです。今、頂点にいるような須田景凪さんとかも、未だに「シャルル」の音源を残してるじゃないですか。だから俺も、ボカロPとしての曲も残しつつ、獅子志司として歌い手もやっていきたい気持ちですね。
-再生数では、初音ミク歌唱と獅子さん歌唱バージョンで競ってますよね。
勝負してる感じです(笑)。最近は再生数で自分の曲のほうが伸びてるのは嬉しいですよね。
-活動初期はChoisauce(チョイソース)を名乗っていたと思いますけど、その頃はどんなことを考えながら活動してましたか?
Choisauceっていう名前の由来が、選択(Choice)と編集(Sauce)っていうことで付けたんですよ。その頃はシンガー・ソングライターをやめて、アレンジとか作曲を仕事にしたいと思ってて。事務所に曲を送ったり、作品のコンペに参加したりしてみてたけど、ことごとく落ちたんです。ネットの賞レースでも自分のほうが再生数が多いのに受賞できなかったりして。大人はダメだなと(笑)。
-大人たちのセンスがないんだと(笑)。
そう! そうなんです(笑)。ちょっとやってらんないなと思って、その頃にボカロっていうものをやるようになったんです。上から選ばれるんじゃなくて、聴いてくれる人が推してくれるほうがいい。で、Choisauceとして自分が出せる精一杯を出してみようと思って、「風花のバス停」(2018年発表/動画は現在非公開)という曲を出してみたんですよね。
-ミディアム・テンポの曲ですよね。今回のアルバムには入ってないですけど。
はい。その「風花のバス停」で、ちょっと反応を貰えたんです。で、その当時はアレンジャーになりたい欲が強かったから、"俺はいろいろな曲を作れるぜ"っていうのを見せたくて、ハッピーな曲を出したんですよ。その反応がイマイチで。これはなんなんだろう? って考えてたときに、「有象無象も踊る夢」を出したんです。
-アルバムでは1曲目に収録されている曲ですね。
これも、"こういうロック系の曲も作れるよ"っていう振り幅のひとつとして出したんです。で、歌詞も、"なんで聴いてもらえないんだろう?"っていう気持ちをそのまま重ねて作ったら、いろいろな歌い手さんにも歌ってもらえるようになって。"あ、こういうことなんだ"っていうのを知ったんです。
-そのときに掴んだ"こういうことなんだ"っていうのは言葉にできますか?
うーん......統一しなきゃ、ダメなんだなっていうことですかね。"こんなのも作れるぜ"ってやるのは、自己満だなって。聴かれない音楽ほど、作っててつらいものはないので。自分の世界観を統一するように考えて作ろうっていう意識に変えて、次に「lielie」を出したんです。
-たしかに「lielie」はジャジーな要素が加わりつつ、ダークな世界観は「有象無象も踊る夢」を踏襲してますね。
バッドエンドな曲ですね。この曲は自信もあったし、わりと反応も良かったんですけど、周りを見ると、他のボカロPさんがバンバンいい曲を出してたから、その中では埋もれてたんです。正直、生活していくっていう意味でもキツくなってくる時期で。その次の「絶え間なく藍色」を出すときは、この曲でダメだったら、俺はダメかもしれないっていうぐらい本気で作ったんです。
-同時に名義を獅子志司に変えるんですよね?
あ、そうですね。やっぱりChoisauceは(自分が何をやるか)選択する時間だったんだなと思ったんですよね。「有象無象も踊る夢」と「lielie」を出して、やっと自分の作りたい音楽を見つけられたから、名前を獅子志司にしたんです。
-当時、サウンドで自分なりに見つけられたものはありますか? ピアノの存在感を際立たせたノレるアレンジが魅力かなとは思いますけど。
もともとダンス・ミュージックが好きなんですよ。海外のノレる音楽が好きなんですけど、J-POPのドラマチックな音楽もすごく好きなんですね。どうにかそのふたつを合わせた曲を作りたいっていうのはありましたね。それが「絶え間なく藍色」で出せたんです。
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