Japanese
17歳とベルリンの壁
2020年08月号掲載
Member:Yusei Tsuruta(Vo/Gt/Syn)
Interviewer:山口 智男
-ところで、さっきエレクトロニックっぽいという話も出ましたが、今回の『Abstract』では、どんな音楽を作りたいと考えたのでしょうか?
今までで一番シンセを使った音像と退廃的なイメージを考えていました。音響的にはドリーミーな上物とデッドなドラムというのがありましたね。アルバム単位で参考にしたのが、BROTHERTIGERの『Out Of Touch』、SMALL BLACKの『Best Blues』、SUPERCARの『HIGHVISION』、サカナクションの『sakanaction』の4枚です。どのアルバムもシンセをたっぷり使っていて、その中でもBROTHERTIGERとSMALL BLACKは、ジャンルで言うとチル・ウェーヴになるんですけど、ベッドルーム・ポップというか、家の中でひとりでできる音楽というイメージがあるチル・ウェーヴを、バンドの肉体性みたいなものも残しながらやっているんですよ。特に、SMALL BLACKはちゃんとバンドでチル・ウェーヴをやっている人たちなんです。
-Tsurutaさんが今現在、そういう音楽に興味があるということなのでしょうか。それとも、今、この時代に相応しい音だということなのでしょうか?
どちらでもないです。もともと、シューゲイザーってエレクトロニックとの親和性が高いジャンルだと思っていて。古いところで言うと、M83やGUITARはそういう融合をやっていたと思いますし、LETTING UP DESPITE GREAT FAULTSなどもそういうことをやっているんですけど、エレクトロニックとシューゲイザーをひもづけるというのは、いつかやりたいとずっと思っていたんです。それにチル・ウェーヴは、2010年代前半に好きだったので、今ハマっているとか今鳴らすべき音楽とか、そういうことではないんですよ。
-退廃的なイメージとおっしゃっていましたが、それも今の時代云々は関係ないと?
そうですね。チル・ウェーヴってハッピーな感じの、多幸感で現実逃避しているような印象の曲が結構多いんです。曲名が"パラダイス"みたいな感じの。それと真逆の解釈もできるかもっていうのはちょっとありました。
-だから、1曲目のタイトルが"楽園はない - No Paradise"なんですね。
そうですね。でもまぁ、言うほど、『Abstract』はチル・ウェーヴってわけではないんですけど。
-4曲目の"凍結地 - Frozen Place"というタイトルもそこに繋がるのでしょうか?
レコーディング中にエンジニアさんと喋ってたんですけど、"コロナ後の世界がどうとかみたいなことを言われるんじゃないか"って。でも、そういうことは何も考えてないです(笑)。
-考えていたのは、自分が作りたいものをどう形にするかということだけだと?
そうです。あとは、3枚目の『Object』がちょっとポップだったから、その反動も退廃的というところにはあるのかなと思います。
-今回、以前ほどあからさまなポップ・ソングじゃないというか、わりとリフレインで構成した曲が多いのかなという印象がありましたが。
リフレインは、どのアルバムもだいたいそうだと思います。
-じゃあ、今回曲作りするうえで、展開を減らしてみたいなことは考えていない?
それは17歳とベルリンの壁としてというレベルでは考えていますけどね。展開はあまりいらないとか、頻繁に変わるギターのリフはいらないとか。でも、それは『Aspect』の頃からずっと考えていますね。
-なるほど。今回、シリーズ最終作ということなのですが、4枚のミニ・アルバムには1個のシリーズとして、一貫したテーマあるいはストーリーがあるのでしょうか?
一貫しているという意味では、その4枚はジャンルが違うとまでは言えないまでも、17歳とベルリンの壁の音楽になりつつ、向いている方向が違うということですね。
-つまり、17歳とベルリンの壁が持っている可能性を、4枚それぞれに違う方向性で表現したわけですね。
そうです。このバンドが例えば10年後に聴かれるときに、"初期の4枚、いいよね"と会話されるみたいなまとめ方をされたいんですよ。そういうことも意識しながら、ジャケットやタイトルに統一性を持たせながら4枚作ってきました。
-さっきタイトルを挙げた「凍結地 - Frozen Place」のアーバンというか、ファンキーなサウンドは、バンドにとって新境地と言えるのでは?
やったことがないジャンルであることと、同期を初めて使ったということを考えると、たしかに新境地と言えると思います。
-どんな発想から作っていったのでしょうか?
『sakanaction』に「映画」という曲があるんですけど、僕はアルバムの中の若干の箸休め的な曲だと理解していて、アルバムの中の位置づけとしては、そういう曲が作りたかったんです。イントロのギターはTYCHOというバンドの雰囲気を意識しました。
-全6曲にそういうスペシフィックなコンセプトがあるわけですね。今回のレコーディングを振り返っていかがでしたか?
大変でした。プリプロを始めたのは、去年のゴールデンウィークですからね。とにかく時間がかかりました。
-なぜ、そんなに大変だったんですか?
シンセを主軸として扱うことがバンド初の試みだったからなんですけど、曲作りの段階でなかなか自分が納得するものができなかったんです。手段が目的になってしまったというか、シンセは使っているけど、そもそも曲として別に良くないよねという状態になっていました。ちゃんといい曲を作るってところで、まず時間がかかってしまってしまったんです。あとはシンセの役割ですね。例えば、Perfumeみたいなイケイケのシンセにするのか、Brian Enoのようなアンビエントというか、曲の後ろでふわーっと鳴るようなパッド的なシンセで作るのかでも、全然違いますし、それを曲ごとにいろいろ考える、シンセのサウンド・デザインにも時間がかかりましたね。
-6曲目の「十年 - Ten Years」のベースはシンセですか?
プレべ(プレシジョン・ベース)のような丸く太い音を目指したので、そういうふうに聞こえるかもしれません。
-"Abstract"というタイトルは、どこから?
『Reflect』を作ったときから決めていたんです。今回挑戦したシンセを使った音像は、どんなふうに作ればいいんだろうという意味で、僕にとってぼやけた、抽象的なものだったので、そういう意味の言葉を末尾ct縛りの言葉を探す中で見つけました。
-『Abstract』を完成させたことで、ぼやけていたものがはっきりしたという手応えももちろんあるわけで。
そうですね。"何もわかっていないことがわかった"ような状況です。もうちょっと肉体性を落とした、テクノ・ミュージックっぽいものになるんだと思っていたんですけど、思いのほか、バンド・サウンドになっていて。エレクトロニック・ミュージックの奥深さははっきりしました。
-次にどんなことをやりたいかということも見えてきたのでしょうか?
はい。1stフル・アルバムになるのか、よりコンパクトなEPになるのかわかりませんが、やりたいことはいろいろあるので考えています。
-8月29日に渋谷TSUTAYA O-nestで開催を予定しているワンマン・ライヴ("17歳とベルリンの壁-Oneman Live- Act")は、どんなライヴにしたいと考えていますか?
『Abstract』リリース後初のライヴなので、『Abstract』の全6曲を、ライヴで聴いたらどんな感じになるのか楽しんでいただけたらと思っています。それと、初めてのワンマンなので、これまでやってきた30分や45分のライヴではなかなか演奏できない曲、最近やっていない曲もやりたいと考えていますね。ぜひ楽しみにしていてください。
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