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INTERVIEW

Japanese

奮酉

2019年08月号掲載

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Member:高田 蒔(Gt/Vo) 河西 愛紗(Dr/Vo)

Interviewer:山口 智男

今の私たちにできることを最大限、嘘偽りない音と共に封じ込めた1枚。私たちにしかできない"FURUTORI MUSIC"の今の答えです


-ところで、今回音像が前作よりも生々しく、なおかつタイトルにもあるようにエモーショナルになった印象があったのですが、益子さんと共にどんな音像にしたいと考えていたのでしょうか?

高田:誰にお願いするかってなったときに"奮酉的に理想の音って、既存の曲であるかな?"って話になって、ピックアップしていった曲が、益子さんがレコーディングやマスタリングをしたものってことが結構多くて。それで、"あ、こういう音が好きなんだ"と思ってお願いしてみたら、偽りがないというか、ごまかしのきかないレコーディングで、ミスったところだけ録り直すことは基本NGで、すべてバッと録るっていうのが基本だったんです。レコーディングしながら益子さんが、"(ふたりが)出した音しか録れないから"ってよく言っていて。だから、生々しさっていうのは、ごまかしがきかないレコーディングだったからっていうのがあるかもしれないです。

-理想の音っていうのは、具体的な言葉で説明できるものだったんですか? それとももっと感覚的なものだったんですか?

河西:最初に益子さんとお会いしてどういう音にしたいか話し合ったとき、私は"LOSTAGEとふくろうずが大好きで、そのふたつが自分の中で音楽的にもライヴ的にも音的にもオルタナなんです。そういう意味でオルタナなサウンドに仕上げたいです"って伝えました。そしたら、"そういう音が出せるかどうかだよね。基本的には一発録りだよ。部分的な録り直しはしないし、歌もピッチ修正はしないけど、大丈夫ですか?"と言われて。そのときの打ち合わせが自分の中でほんとに印象的で、ほんとに頑張らなきゃって思いました。

高田:益子さんのスタジオで益子さんがレコーディングしている音源は、他のアーティストさんも基本そういうやり方をされているそうです。ドラムとギターは同じ部屋で一発録りしたんですけど、最初のうちはどっちかがうまくいっても、どっちかがもうちょっとっていうこともあって。

河西:あったねぇ。

高田:すっごくつらかった(笑)。何回やってもうまくいかないこともあって、"いつまで経っても終わらないんじゃないか。このままじゃ、みんな帰れなくなる!"って(笑)。

河西:そう思いながらも、"今の微妙だったから、もう1回お願いします!"って。

高田:正直何回も泣きそうになったんですけど(笑)、最終的にはテイクを重ねたからこそいいものができたという手応えもあって。あの回数やらなかったらできなかったかもって思います。中でも「トランス」は最後OKになったテイクがすごく熱かった。

河西:すっごく覚えてる!

高田:身体の中からもう爆発するんじゃないかって熱量でやっていたんですよ。

河西:演奏しながら、途中までは"今までいい感じだからミスっちゃダメだ"って思ってたんですけど、最後のほうは、そんな邪念は一切なく演奏に集中できて。その場にいた全員が"これで決まりだ!"ってなりましたね。

高田:終わったあとも息切れして鼓動も早くなってたし、ふたりともしばらく無言で、顔を見合わせて"良かったんじゃない?"って(笑)。レコーディング全部が、すごく印象深かったですね。

河西:そのときのことと"SXSW"の体験が、『エモーション-モーション』の"エモーション"に込められているんです。

-お話を聞かせてもらうまでレコーディングの方法や大変さはわからなかったですけど、わからなくても音源から伝わるものはありますよね。

河西:伝わっていたら良かったです(笑)。

-歌詞の書き方も前作からちょっと変化があるのかなと感じました。より映像的になったというか、歌の世界観が情景として浮かび上がるような歌詞が増えましたね。

河西:そう言ってもらえると、すごく嬉しいです。前作を経て、メロディと歌詞と映像が全部一緒になっている曲がいい曲だと思うようになったんですけど、前作と比べて、そこの意識はかなり変わったと思います。スタジオでも"ここのシンセのソロの部分は、こういう映像イメージで"とか。それは演奏に関してですけど、歌詞にも関してもね。

高田:そうだね。曲を作っている最中に"こういう映像なんだよね"、"こういう世界観だよね"って結構共有できるようになってきて、そこに歌詞が追随してきているのかなって思います。

-同じ夜の街を舞台にしながら、河西さんが歌詞を書いた「トランス」と、高田さんと共作した「街」では、ずいぶん内容が違うなと。もっとも、曲が違うんだから違って当然なんですけど、ひょっとしたら、街に対するイメージの捉え方にふたりの個性が表れているんじゃないかと想像しましたが。

高田:「トランス」は私がコード進行を持ってきて、セッションを重ねて曲が先にできたんですけど、最初私は全然違う歌詞を考えていたんです。でも、愛紗が持ってきた歌詞がいいと思ったので、そっちになったんですけど、街に関する曲を作ろうと思ったわけではないから、一概に街に対するイメージの違いとは言えないのかな。

河西:「街」は街がテーマだけど、「トランス」は逃避行がテーマなんです。

-あ、逃避行なんですか。もっとロマンチックな歌なのかなと思っていました。

河西:逃避行ってロマンチックじゃないですか(笑)?

高田:私も"逃避行ってテーマで考えてるんだよね"って聞いてたから、愛紗が歌詞を持ってきたとき"逃避行って、こういう感じか"って思いました(笑)。でも、「トランス」のロマンチックな歌詞と愛紗がイメージしている逃避行は、ちゃんとリンクしていて、愛紗が言っている逃避行って言葉もロマンチックなんですよ。

-もちろんロマンチックな歌詞だと思うんですけど、逃避行って言われると歌詞の中のふたりは許されない関係なのかなって(笑)。

河西:なるほどなるほど。

高田:私も逃避行って聞いて、いけない関係の人たちなのかと思った(笑)。

河西:へぇー(笑)。

高田:ふたりが違う捉え方をしていることが、いい意味であって。「BYE」って曲も"SXSW"でこういう曲をやりたいと思って私がギター・リフをスタジオで弾いていたら、(愛紗が)"いいじゃん"って言ってくれて、またセッションで曲ができてから歌詞をつけたんですけど、このメロディだったらこういう歌詞かなって私が考えてたものと、全然違う歌詞を愛紗が書いてきたから、"こうくるか"って感じたんです。でも、私が考えていたものよりいいと思って愛紗が書いてきた歌詞にしたんですけど、メロディに対する歌詞の捉え方、作り方がふたりで違うところがあって、いい意味で裏切られることが結構あるんです。そこが面白いところでもあるなっていつも思いますね。

-さて、『エモーション-モーション』、どんな作品になったという手応えがありますか?

高田:純粋に好きですね。世界に溢れているCDの中からお気に入りを選べって言われたら、必ず入ってくると思うんですよ。

河西:すごいね(笑)。

高田:それぐらい好きなんですよ。おこがましいですけど(笑)。でも、熱量がほんとに大きくて、聴いていても気持ちいい。もちろん未熟なところがあるのはわかってるんですけど、今の私たちにできることを最大限、エモーショナルで嘘偽りない音と共に封じ込めた1枚ですね。

河西:私たちにしかできない"FURUTORI MUSIC"の今の答えだと思います。もちろん、それはどんどん更新していきたいものなんですけど、ほんとに今の最大限の6曲です。今回すごくいいものができたと思うからこそ、新しい曲を早く作りたいし、聴いてほしいし。『エモーション-モーション』が"FURUTORI MUSIC"だよねって感じている今の段階では全然思いつかないものが、また作れたらいいなと思ってます。