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INTERVIEW

Japanese

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)

2017年02月号掲載

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Member:R-指定 DJ松永

Interviewer:石角 友香


他のジャンルを食ってしまえるぐらいにはなりたいと思ってる


-テーマが"助演男優賞"なわけじゃないですか。他のリリックに比べたらそこまで言いすぎじゃないというか、タブー視されるようなことじゃないんですけど。

DJ松永:まぁ、曲のテーマが誰かを攻撃してるわけじゃないですから。

R-指定:1曲目のこの曲や、2曲目の「どっち」はわりと自分らの立ち位置説明やったりとか、自分らがなぜこういうふうになっていったのかをひもとくような感じもあるんで。だから前作と地続きでもあるというか。で、3曲目の「教祖誕生」からガラッと空気が変わって、どんどん重たい内容になっていくって感じではあるんですけど。まぁ「助演男優賞」も、直接的ではないにしろ言葉遊びに関しては一番好き放題遊んでるのかな、と。

DJ松永:ダブル・ミーニングとかは死ぬほど詰まってますね。たぶん噛めば噛むほど出てきますよ。

-助演男優っていうのも、代わりはいない感じがしたんですよ。"ブラックレイン 松田優作"って、松田優作の方が際立ってるし、という(笑)。

R-指定:だからそこは最後の"時として主役を喰っちまう"みたいなところにかかってるんですけど、グレードがだんだん上がっていくっていう、その言葉遊びなんです。最初は"蕎麦屋のかつ丼"、"牛丼屋のカレー"。で、"バナナワニ園のレッサーパンダ"。これは松永さん、ようわからんよな? 1回説明したんですけど、なかなかわかってくれる人がいなくて(笑)。"バナナワニ園"に行ったことがある人は"あー!"ってなるんですけど、実際に俺も行ったとき、バナナとワニって書いてるのにそこの名物がレッサーパンダで、なにそれ? と思って(笑)。日本で一番レッサーパンダがおるのが"バナナワニ園"やねん。じゃあもう"レッサーパンダ園にしろよ"っていう(笑)。で、どんどん"ダークナイトで言えばジョーカー"とか"ブラックレイン 松田優作"とか、ハードルを上げて、オチで"Rock Fes.でのCreepy Nuts"って自分らで言うっていう(笑)、ちょっと恐縮しちゃうんですが、これはヒップホップな言い回しですね。ハードル上げて上げて、最後に自分っていう......(笑)。

-ハードル、上げていってません?

R-指定:とか言いつつも"助演男優賞"なので。でも他のジャンルも食ってしまえるぐらいになりたいとは思ってます。

DJ松永:前向きな曲だね。

-言われる前に自分たちから先に言っちゃおうっていうのはありませんか?

R-指定:あ、でも"先に言っちゃおう"感はずっとあるよな? 先に"自分らは足りない"とか(※2016年リリースの前作のアルバム・タイトル曲「たりないふたり」)。

DJ松永:そうそう。予防線という意味でも(笑)。

R-指定:いじられどころというか、"みんなが思ってんねやろな"ってことを先に自分で言うと面白いなっていうのは――それこそ日本で言うと(忌野)清志郎さんとか桑田(佳祐)さんとかが自虐的に面白い曲を作ったりするのとか、ラッパーではRHYMESTERとか、自分らが好きなアーティストがそういうことをやってるのから学んでて。アメリカだったら、EMINEMとかもそういう感じじゃないですか? 例えばD12っていう地元の仲間が集まったユニットのアルバムを出したときに、最初にD12のアルバム『D12 World』(2004年リリース)から切ったシングルが「My Band」っていう。EMINEMが地元のクルーを引き連れて出したじゃないですか? そしたらどうしてもEMINEMのバーターの奴らやと言われる。だから先にEMINEMが俺のバンドって言い切って、他のメンバーが"EMだけ扱い違うやんけ!! どないなっとんねん!!"って言い合うメンバー内の格差をネタにした曲を出す。そしてEMINEMだけめっちゃでかい車に乗ってるMVを作って。

DJ松永:あれか! あれ最高だよな(笑)。それを先にやられたら、周りがバーターだとかいじるのは野暮だもんね。

R指定:ま、EMINEMだからやれるギャグですけどね、あれは(笑)。でも自分らで先言うっていう、「助演男優賞」とか「未来予想図」もそうやけど、なんかこう思われてんねんやろなっていうことを必死こいて否定するんじゃなくて、"まぁそうやで"みたいな感じで、"そっからどうするかやん?"みたいなことだと思うんで。

-普段バンドの活動に触れることが多いんで思うんですけど、それこそクリープハイプやキュウソネコカミとマインドが同じだなと思ったんですね。

R-指定:なるほど。自分たちの現状をリアルに語るとか、自分たちが虐げられてる現状を話す、そこから成り上がる現状をそのままリアルタイムで話すっていうのは、ほんまに日記やし自叙伝みたいなもんやし、そういう歌詞はこれまでヒップホップの専売特許やったんです。ま、昔の洋楽ロックも邦楽ロックも遡ると、そんなことないんですけど、俺らが思春期のころは完全に棲み分けされてたんです。ヒップホップがそういうもんで、ロックとかはもうちょっと内省的やったり、もうちょっとぼやかして歌うみたいに。でもその境目がなくなってきてて、クリープハイプとかもね、自分たちが言われてるようなマイナス・イメージを曲にしたりしてるし、キュウソネコカミも「ビビった」(2014年リリースの2ndミニ・アルバム『チェンジ ザ ワールド』収録曲)とか。"あ! ロックの人らも具体的にやってきてるやん"と思って、ヒップホップこそもっと具体的にやったろかいっていうのは俺らの中にもあるし、それこそ俺らの土俵やろみたいなんもあるし。だから現状を結構、具体的に書いてる曲も多いんです。

-「どっち」にはRさんの地元の"堺感"が出てると思ったんですけど(笑)。

R-指定:"堺感"(笑)。堺感であり松永さんの地元の新潟の長岡感ですかね。いわゆるマイルドヤンキー文化ってものがすぐ身近にあったし、そういうのに近い連れがおる俺たちやからこそ出るというか。且つ、サブカル的なものにも触れてるから、両方に触れて、良い面悪い面、居心地のいい面、腹の立つ面みたいなんを両方行き来して見てる俺たちやから出てくる歌詞というか、たぶんほとんどのアーティストやとどっちかに振り切ってると思うんですけど。例えば、なよなよしたもんとか小賢しい知識とかは拳で黙らせてきたストリートな感じか、逆に拳の代わりに知識で黙らせるみたいなちょっとこまっしゃくれたサブカル感みたいな......。

DJ松永:体育会系ヒエラルキーは怖いし、文化系ヒエラルキーは腹立つし。そこに集約されてるっていう(笑)。

R-指定:基本的にどっちにもなれなかったってことなんですよ、この「どっち」って曲は。俺の地元、堺なんかは大阪の中でも荒れてるんで、そういうイカツイ奴らが周りにもおったけど、当然そっちにも行かれへんかったし、かと言って音楽に出会って、そういうちょっと文系の知識で優劣をつけるみたいなとこも鼻につくなというか、"何じゃこいつら"みたいな。だからそれをわかりやすくどこの地元の奴にも当てはまるようにした言葉が"ドンキホーテにもヴィレッジヴァンガードにも/俺たちの居場所は無かった"なんです。だけど、それで"こいつらより勝ってる"じゃなくて"それでよかったな"って落とし込み方というか、両方が見れるし、両方の良いとこ悪いとこ知れたし、みたいな。

-これがリリースされたらきっとまた話題になり忙しくなると思うんですけど、聴くと今のCreepy Nutsがわかる作品なのは間違いないかと。

R-指定:長く聴き込んでもらえる作品なのかなと思いますね。情報量もめっちゃ多いんで。

DJ松永:注釈つけ始めたら、歌詞カード真っ赤になりますよ(笑)。