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INTERVIEW

Japanese

HINTO

2016年09月号掲載

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Member:安部 コウセイ(Vo/Gt)

Interviewer:石角 友香

HINTOが前作『NERVOUS PARTY』以来、約2年ぶりとなるニュー・アルバム『WC』をリリースする。安部コウセイがずっと描いてきた、どこかギクシャクした男女間の齟齬や、だからこそ愛おしいふたりのストーリーはそのままに。ギター・ロック・バンドとしてはユニークなサウンドスケープをこれまでより自然に、曲のために全うした聴き応え十分なアルバムに仕上がった。矛盾だらけで割り切れないけれど、本心を盗み見られるようなスリルと快感を湛えた作品はなかなか他のバンドでは味わえない。そのあたりを安部コウセイにじっくり訊いた。

-HINTOが、というか、安部さんの作品って、夏のイメージがありますよね。夏ならではの狂気と言いますか。

そうですね。そもそもHINTOを始めるときからバンドに季語みたいなものが欲しいなと思っていて、夏の中にある楽しくない部分、ネガティヴな部分みたいなものが自分にはわりと似合うのかなと、なんとなく思って。それをメイン・テーマに据えて曲を作り続けてますね。

-今回のアルバムは女性目線なうえに、かなりリアルな曲が多いですね。

うん。SPARTA LOCALS(※2009年解散)をやっていたころから女性目線の歌詞を書くことは多かったです。でも、たしかに今回は多いかも。

-しかもその女性像がハッキリ想像できそうな曲。

そうですね。それも好意的じゃない角度だったり、ちょっとシニックだったりするところで、女の人から嫌われないかなと(笑)。そんなことを思いながら作ってました。

-いや、救われる人も多いと思いますよ。それと伊東(真一)さんのギターがさらに"しゃべってるな"と思いました。

おしゃべりですからねぇ、ギターを弾くとき以外は全然しゃべんないけど。僕が音をまとめるとき、彼のサウンドは匂いが強くてすごく刺激的なんですけど扱いはなかなか難しいところではあるんです。でもそこがうまくハマればお互いにメリットがあるし、逆にそこで喧嘩しちゃうと潰し合いになることもあるんですけどね。まぁ、ああいうギタリストは他にいないので。

-シンセ・ポップ的なサウンドもギターで作るという手法ですよね。

はい。うちら一貫してそこにこだわってますね。"シンセ入れりゃいいじゃん"と思うんですけど、"や、今までギター2本でやってきたんで"っていう歴史がずっとあるので。SPARTA LOCALSのときからメンバーもあんまり変わってないですけど(※HINTOのメンバー安部コウセイ、伊東真一、安部光広は元SPARTA LOCALS)、そこはやっぱりシンセを頑なに入れないっていうこだわりがあるんですよね。だから結局、伊東がああいうことにならざるを得ないというところがあると思うんです。

-それってどっちが先なんですか? "シンセを入れない"というこだわりが先なのか"伊東さんがああいうプレイヤーだから"が先なのか。

いやー、同時ぐらいかな? 曲によってはギターだけだとレンジ的にちょっと物足りないところがあるよなと。伊東がそれと時を同じくして、ちょうどそういう感じに傾倒し始めたんで、彼も同じように感じていたのかも。試行錯誤を繰り返しながらでしたね。今回の『WC』はひとつの到達点というと大げさかもしれないですが、そういうサウンド的な部分もこだわったんで、パッケージとして、すごく体力のあるものに仕上がったんじゃないかなと思います。

-面白いことやってるなっていうのを超えた印象を持ったんですよ。

そうそう、そうなんですよ。

-前作『NERVOUS PARTY』(2014年リリースの2ndフル・アルバム)まではギターでどこまでできるか? みたいな部分もあったと思うんですけど、パッと聴いたときに、そんなに"楽器がなぜあるのか"ってことが気にならないというか。

うんうん。それは必ずしも伊東のギターに限ったことじゃなくて、それはバランスなんで。4人が出してる音のバランスで彼のギターが耳に届きやすいところにあるから、そういうふうに評価されることが多いんですけど、そこの下には何層にも音があるんです。その層にはベースやドラムがきちんとあって、そこがちゃんと連鎖してないとただ単に伊東のギターは"突飛なギター"っていうふうに評価されがちだと思うんです。でも今回はそういう意味では全員の意思の疎通であったり、楽曲に対して個人個人の我を反映させる以上の目的や4人が楽曲の部品になってひとつの音楽を作り上げる意識が一番高かったかなぁと思いますね。

-曲調みたいなところでも、リズム隊のふたりがもともと持ってる部分かもしれないですが、ダンサブルだったりファンク寄りのビートが活きてる曲が多いなと思いました。

そうですね、それもありますね。ベースの(安部)光広は僕の弟なんですけど、彼のベースもすごく独特で、ニュー・ウェーヴ感がものすごくあるんです。泥臭いファンクの要素も硬質なパンクの良さもあって、そこが他にいないベーシストだと思うし。ドラムはドラムで、(菱谷"ビッツ"昌弘が)北海道出身だからってのは関係ないかもしれないけど(笑)、非常に実直なドラマーなので、それぞれの楽曲のキャラクターをより理解してプレイしてくれたというのもあるし。今回、わかりやすさとか今までで一番考えなかったんですよね。自分が聴いて痺れるような感じをなるべく正直に作ろうと思ったんですよ。僕はポスト・パンクとかニュー・ウェーヴ感とか好きなので、自分的にはわりと濃く出たなと思ってて。そういうところもビートが活きてる曲が多いって印象に繫がってるのかもしれませんね。

-曲順も抜群というか、Track.1「なつかしい人」から始まってTrack.3「かるま」まで、男性の主人公と女性の主人公と違いはありますが、曲としては繋がってるなぁと。

そうですね。曲順はすごく考えました。

-ちょっと笑っちゃうようなところもありながら、「なつかしい人」はグッとくるんですよね。この曲ができたことによって何が始まっていったんですか?

歌モノでありながら演奏もちゃんとかっこいい、歌を抜いて演奏だけ聴いてもかっこいい。「なつかしい人」は、そういうことを突き詰めてやりたかったんです。そういう気持ちは突然湧いた思いなわけでもなくて、もともとそういうものの方がいいはずだよなと思ってました。ヴォーカルが入ることでそれがひとつの説明だったり、感情の方向性だったりをわかりやすくするっていう役割として、ヴォーカルを楽器だと思ってるんですけど、その音が抜けたときに"あれ? 全然かっこよくないな"ってなるのだけは僕はやだなと思って。言ってしまえば、歌モノの曲ってわりと歌が抜けると聴いてらんなくなりやすいんですよね。でも歌モノで僕よりすごい人っていっぱいいると思うし、僕より声がいい人はいっぱいいるし、僕より歌モノ的なロマンティシズムで女の子をポーッとさせられるような人もたくさんいると思うんです。だから僕が歌モノで恋愛的なことを歌うのであれば、やっぱりそういう部分も含めて個性的にというか、アイデンティティみたいなものはちゃんと持たせたいなと思ってます。結構それを集中してやったような気がする。

-最初の4曲は浅はかな言い方すると"ウケる"んですよ(笑)。

ウケてほしいんですよ(笑)。曲順を考えたときに、"感動して欲しい"じゃなくて"ウケてほしくて"その曲順にしたんですよ。

-女性目線の歌詞の中でも「かるま」の描写はかなり細かいじゃないですか。"まあまあタイプの顔だし 飲みにでかけてみる/退屈すぎる会話 帰りたいな 嗚呼"とか、女性のシンガー・ソングライターか! という(笑)。

昔っから思ってるんですけど、女の人が"これかわいいね!"っていう感じってあるじゃないですか? 普通なら男ってわかんないでしょ? それで僕、一応口じゃ"何がかわいいんだよ!"ってかっこつけて言うんですけど、むちゃくちゃ理解できるんです、感覚が。

-感覚って、例えば?

ファンデーションの色とか口紅の色とか"どっちがいい?"って聞かれたとして、男から見たらよくわからないし"どっちでもいいよ、色ついてたら"って感じだけど、"絶対こっちの方が似合うわ"って感覚がなんかわかるんです。