Japanese
The cold tommy
2015年08月号掲載
Member:研井文陽 (Vo/Gt) 榊原ありさ (Ba) 松原一樹 (Dr)
Interviewer:天野 史彬
-松原さんはどうですか?
松原:僕は、米のひと粒ひと粒に言葉が書いてあるってことに気づかない部分もあるし、"おにぎりのご飯は白いものだ"って決めつけちゃってるときも多分あると思うんですよ。だから、どれくらい自由な見方をできるか......1回噛み砕いて、なんなら自分でも米に言葉を書いてみるっていうことをしなきゃいけないなって思っていて。だって、今の研井の話も、すごい面白くないですか(笑)? 僕には絶対に出てこない。それは、ドラムで言ったらリズム・パターンでもそうだけど、でも、(研井は)それを持っているから。だから、それを取り入れて、且つどのくらい自分の色を入れて表現することができるかっていうことだと思いますね。
榊原:そう。変な話、私たちも一緒になって文字書いちゃったりもするんですよ(笑)。"寿よりもっとメッセージ性のある文字の方がいいんじゃない?"みたいな感じで(笑)。さっきから彼は自分ばっかりが馬鹿で間違っているっていう見方で話してますけど、意外とふたりもやっちゃうタイプなんですよ。
松原:そうそう。そうだよ。
研井:うん、そうだ! 俺は間違ってない! ......まぁ、たまにパニックになりながら運転してる感じになっちゃうっていうだけで。
-(笑)じゃあ、この『FLASHBACK BUG』というおにぎりの米粒には、どんな言葉が書かれているのか、詳しく聞いていきたいんですけど。やっぱり、"フラッシュバック"っていう言葉がキーワードなのかなって思ったんです。これはTrack.5「気まぐれニーナ」にも出てくる言葉であり、作品全体に通底する空気感でもあると思うんですが、この言葉にはどんな想いを込めたんですか?
研井:不意に、意味不明な記憶や感覚が湧き上がってきて、集中力を削がれたりすることって、日常であるじゃないですか。俺の兄貴が言ってたんですけど、昔、兄貴が学校で、先生に"お金か顕微鏡か、どっちかを選べ"みたいなことを言われたことがあるらしいんですよ。そのとき、兄貴はお金を選んだらしいんですけど、そしたら前の席にいたスマくんっていうやつが後ろを振り向いて、"お前は顕微鏡を選ぶと思ったけどな"って言ったらしいんです。その記憶が強く残っていて、人生の分岐点になると、その記憶が湧いてくるらしいんです。意味のない、その言葉が湧いてくるっていう......そんなの不条理じゃないですか。その不条理に意味があるのかどうかすら、誰も教えてくれない。それって、人生においてすごく悲しいことのような気がするんですよ。何かをやりたいだけなのに、横槍が入ってくる、みたいな......。運命みたいなものって、すごく悲しいですよね。そういう不条理な、不意に現れるフラッシュバックをやっつけろ!っていう意味で"FLASHBACK BUG"、みたいな感じです(笑)。これは作品全体的にあるものだと思うんですけど、俺はTrack.3「PLUTO」の歌詞が特に気に入っていて。心の中の暗い部分が出てきたときに、それをバグらせろ!みたいな......そんな気分かな。"不条理に負けたくない!"っていうメッセージ。こんなこと、今初めて言ったけど(笑)。
-そのフラッシュバックは、研井さんにもよくあるんですね?
研井:めちゃくちゃあるんですよ。でも、それってほんとに意味なくて。"邪魔だな"って思うこともできない。でも、きっとみんなにもあると思うんですよ。みんなは相手にしないか、ちゃんと捨てることができるのかもしれないし、俺も、できる限りは捨てるんですけど、でも、そもそも捨てるって、記憶に対してどうすれば捨てられるのか、よくわからないし......。結局、神様って、そういう不条理も与えるから。でも、音楽は違うじゃないですか。音楽って、不条理は生まないから。音楽って、ほんとに眩しいものだから。暗い音楽でも、いい音楽は眩しいじゃないですか。そういうものを作れるようになりたいし、その第一歩になったらいいなと思って作りましたね。
-う~ん、なるほど。なんだか話を聞いていると、研井さんって、音楽を全面的に信じていますよね。それは、筋トレばっかりしていたころに救ってくれたっていう話以上に、もっと根本的で絶対的な信頼を音楽に対しておいている気がするんですけど。
研井:あ、そうですね。もっと遡ると、音楽に対する想いはあると思います。俺、中学生のころ、THE BLUE HEARTSが大好きで、ずっと歌ってたんです。それが最初かな。いやでも、その前に『ドラゴンボールZ ヒット曲集』っていうのを兄貴が持ってて......それかなぁ。もしかしたら、FIRE BOMBER(※アニメ"マクロス7"に登場するバンド)の可能性もありますね......。
榊原:(笑)でも、小さいころに心で受ける衝撃って、深くまで刺さるし、それが今も抜けないっていう感覚は、音楽をやってる人にはあるだろうね。
研井:うん。その中の1番コアになる部分って、もう人知を超えたもので、ただただ"救い"としてあったりして。救いって、感動じゃないですか。それは、THE BLUE HEARTSか『ドラゴンボールZ ヒット曲集』か、どれかはわからないけど、どこかの時点で絶対にあった確信はあるし、みんなもそうなんだと思う。音楽を聴いて、感動して、それにずっと触れていたいと思ったから音楽をやるんだろうし、聴くんだろうから。俺は、いろいろ理屈こねて考えちゃうけど、そのことに関しては、理屈はもういらないなっていう気分に最近なれていますね。あ、でも、最初から俺ってひん曲がってるなって思うのは、小さいころ、"ドラゴンボール"の曲を歌いたいんだけど、歌うと親が"上手だね~"とか言ってからかってくるんですよ(笑)。そんなことされると、恥ずかしくて歌いたくなくなるじゃないですか。だから、こっそり歌うんだけど、バレると拍手とかされて(笑)。それで、"もう嫌だ!"って(笑)。その結果、どんどん歌いたくなくなっちゃったんです。だから変な話、小さいころの自分にとって"歌う"という行為が、神聖な、隠れキリシタンの持っていた隠れマリア像みたいなものだったのかもしれないです。
-なるほどなぁ。あと思ったのは、研井さんって、極端に感情的になることに対して距離感を持っていますよね? 例えば"寂しさとか 言葉にしたら/君の嫌う あの安っぽい事と/同じになってしまうよ"(Track.2「リュカの黒髪」)というラインとか、あとTrack.4「bobboy~慣れたら楽園~」の歌詞もそうですけど、被害者ヅラして不幸ぶったり、寂しさを大々的に表現したりすることに対する嫌悪感って、ありますよね?
研井:すごくあると思います。やっぱり、感情的に"自分はこうだから!"っていうことを強い立場で言える感覚って、社会を盾にして"これは法律で決まってるから当然でしょ"みたいなことを言えてしまう感覚に近い感じがするんですよ。"感情的なんだから、しょうがないじゃん!"みたいなことを建前に使うと、本当のことから遠くなっちゃう。本当のことって、もっと淡々としているし、淡々としているけど熱くあるものだから。それに対して、頭で考えた熱いことを盾にコミュニケーションしてしまうと、そこからどんどん外れてしまいますよね。(感情は)もっとあたたかい気持ちで受け取ったり、"ありがたいな"っていう気持ちで受け取るべきで。自分の利益になるようにコミュニケーション上で使うという行為に、すごく冒涜を感じるというか。そういうことはよくあります。
-今作の資料に、"誰にでもある日常を ここにしかない言葉と音で 共有する悦び"と書いてあるんですよ。これはThe cold tommyの標榜するひとつの思想だと思うんですけど、世間一般で行われる"共有"という行為は、大体が、研井さんの嫌う極端な感情表現によって成り立っていると思うんです。それは音楽だけじゃなく、小説でも映画でもニュースでも、"誰かが死んで悲しい"みたいな、感情の極限の部分を提示することで、多くの人の共感を得ようとするのが、今の"共有"の在り方なのかなって。それに対して、The cold tommyはどんな"共有"を提示していきたいと思いますか?
研井:やっぱり、生きている不思議というか、生きている奇跡というか......。"なんでだろうねぇ?"とか"わかんないよねぇ?"っていうこと、"でも、なんかいいよねぇ!"みたいな、そういうことを共有したいんだと思います。......みんな、やっていることはバラバラだと思うんですけど、でも、その行為の下で繋がっているものって、なんかあるじゃないですか。行為はバラバラでも、その下にある"面白いことしたい"っていう、そういう想いを共有したいですよね。行為って頭で考えてやることだから、行為に利益とか意図を持たせようとすると、流れが変わっちゃう。だから、それだけは避けたい。そうじゃなくて、あくまでも、みんながハッピーに、祈るような気分になれるような......そんなシーンとした美しさを提示できたら最高だなって思います。
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