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FEATURE

Overseas

INCUBUS

2011年07月号掲載

INCUBUS

Writer MAY-E

FUJI ROCK FESTIVAL 11への出演が発表された5月頃から、私がレジデントDJを務めているロック・バー“新宿ROLLING STONE”でも、INCUBUSのリクエストを多く頂くようになってきた。この5年間、ほぼ活動休止状態にあったINCUBUSが、新作を引っ提げようやくシーンに復帰したとのニュースはファンの一人としてとても喜ばしいことであるが、興味深いのは、そのリクエストのほとんどがバンドの代表作と言われている2ndアルバム『Make Yourself』(99年)でも3rdアルバム『Morning View』(01年)でも、ましてやミクスチャー・ロック全開だったデビュー・アルバム『S.C.I.E.N.C.E.』(97年)でもなく、初期の音楽性から大きく離脱した5thアルバム『Light Grenades』(06年)ばかりであるという点だ。

そう、91年に結成したカリフォルニア出身の5ピース・バンドINCUBUSが、ラウド・ロック/ミクスチャーのカテゴリで語られていたのは、もう遥か昔の話だ。4thアルバム『A Crow Left Of The Murder』(04年)の頃からオルタナティヴ・ロックへと大きく舵を取っているが、今では一ロック・バンドとしてすっかり世間に認知されているのだと改めて痛感している。
INCUBUSには、二つとして同じアルバムはない。作品ごとに必ず良い意味での裏切りがあるのだ。前作『Light Grenades』から5年振りに届けられたニュー・アルバム『If Not Now, When?』でもやはり、これまでにない新たなサウンドを開拓している。
フロントマンBrandon Boyd(Vo)の言葉を借りると、今作は“ロマンチックで豊かな音のラブレター”。彼らしい洒落た表現だが、まさしくその通りである。

アルバム・タイトルにもなっている冒頭の「If Not Now,When?」をはじめ「Friends And Lovers」「Thieves」と、ドラマティックでスロウなナンバーがずらり。どれをとっても幸福感と開放感に溢れ、ヴォーカルもサウンドも実に伸び伸びとしている。INCUBUSらしいテクニカルな手法も伺えるが、決してハードではなく、全てを優雅な音の響きに変えている。また、「Promises, Promises」のような良質なポップ・ソングの中に、ひとつだけテイストの異なる「Switch Blade」が配置されているのも面白い。“端正な初期のレッチリ”なんて例えたくなるような軽快なナンバーなのだが、なるほど、現在のINCUBUSのアグレッションはこういう風に表現されるのかと妙に頷ける一曲だ。アコースティック・ギターのメランコリックなイントロからダイナミックなバンド・セッションへと展開する「In The Company Of Wolves」は7分半にも及ぶ大作で、こちらも聴き所のひとつ。「Tomorrow’s Food」はアンビエントで美しいアウトロが深い余韻を残すなど、アルバムのラストを飾るに相応しい一曲だ。温かな空気に包まれた一枚である。これはFUJI ROCKのステージでもきっと映えるであろう。INCUBUSの中で最もスロウで優しいアプローチのアルバムであり、感触としてはエネルギッシュだった前作『Light Grenades』と対極にあるアルバム、と言えるかもしれない。

「曲がりくねった路をいくつもの風景や多様な地形を経て散策してきた。そう、身体は痛いし足は疲れ、靴には穴があいているしシャツを脱いでも昔のようにはキマらない。だからといって歩くのをやめるわけじゃないんだ」(Brandon Boyd)

結成から数えると、早20年が経過する。かつてドレッドヘアに半裸の姿でジャンベを打ち鳴らすような野性児だったBrandonに未だ懐かしく思いを馳せるファンの方々にも、現在のバンドのありのままの姿、そして今作『If Not Now,When?』は眩しく映るに違いない。

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