Japanese
浅井健一
2011年03月号掲載
Writer 沖 さやこ
昨年はBLANKEY JET CITY時代からの盟友である照井利幸と共に結成されたPONTIACSで話題を集めたベンジーこと浅井健一。2006年にスタートさせた彼のソロ・プロジェクトの選りすぐりの楽曲を収録したベスト・アルバム『CORKSCREW WORLD -best of Kenichi Asai-』が3月16日にリリースされる。
BLANKEY JET CITY解散後、SHERBETS、AJICO、JUDEとバンドごとに全く違うアプローチを休む間もなくかまし続け、我々を楽しませてきたベンジー(※彼とお会いしたことはないが、敬意を込めて彼を“ベンジー”と呼ばせて頂く)。バンドというものに拘り続けて来た彼が、ソロ・プロジェクトを始動させると聞いた当時は、驚きが大きかった。だがその後すぐリリースされたシングル『危険すぎる』、『WAY』、アルバム『Johnny Hell』を聴いて納得した。彼のソロ・プロジェクトの音楽はとにかく軽やかで、自由さに溢れていたのだ。曲によってキーボードを入れ、ヴァイオリンを入れ、メンバーを変え――それはまるで、まっさらなキャンバスに、使う画材を選ばず、感じたままに心地良い絵を描いているようである。浅井健一というひとりの人物の人生という壮大な物語と言っていいだろう。バンドというものは特定の複数の人間と音を作り上げ、化学反応を起こすもの。彼のソロ・プロジェクトはBLANKEY JET CITY、SHERBETS、AJICO、JUDEと言ったバンドとは根本からまったく別の物なのだ。
2007年に入り、4月に『FIXER』、5月に『Dark Cherry』とシングルを連続リリースし、6月には黒い猫と白い猫のジャケットが印象的なアルバム『Rod Snake Shock Service』と『CHELSEA』を2枚同時リリース。バンド・サウンドを主体としたノリノリなロック・ナンバーが多い前者と、内省的な色味が強い後者と、両極端の世界観を打ち出した。同年12月からSHERBETSの活動を再開させ、ソロ活動は一時休戦。2009年7月にシングル『FRIENDLY』で再始動。エンジニアに深沼元昭を迎え制作された、同年9月にリリースのアルバム『Sphinx Rose』は、柔らかく、優しいぬくもりに溢れ、同時に内なる激しさを秘めた“歌”がフィーチャーされた作品になっている。同時に、これまでベンジーが作り上げたアルバム(BLANKEY JET CITYなどのバンドも含めて)の中で、一番“浅井健一”という人物を近くに感じたアルバムでもあった。このアルバムで改めて「浅井健一」という名義のプロジェクトに大きな意味を感じた。
今回のベスト・アルバムはソロ名義の全シングル等、ニュー・ミックスを含む全15曲を収録。ベンジーが歩んだ人生の中から生まれた、ぬくもり溢れる15個の物語をひとつひとつ噛み締めたとき、心の中に尊い優しさと強さが宿るだろう。
『CORKSCREW WORLD -best of Kenichi Asai-』全曲レヴュー
01.「WAY」
2006年9月発売の2ndシングル。イントロのドラムの力強さと浮遊感のある、そよ風のようなキーボードが爽快なロック・ナンバー。ポップでありながらも“歪んだ世界で純粋に生きる/それってすこぶるだめってことじゃん”と物悲しさを含ませる。ベンジーならではの、ひねくれたキャッチーなセンスが織り成す奥深さ。1日1日を生き抜く意味と、生きることの大切さを考えさせられる。
02.「Dark Cherry」
2007年5月発売の4thシングル。クールなタイトルとは裏腹に、シンプルでアッパーでゴキゲンなポップ・チューン。キュートなサビのフレーズの掛け合いと、間奏で刻まれる耳を劈く切れ味抜群のギターのコントラストが面白い。ドラムに合わせて手拍子したくなるし、ギターに合わせて腰を振りたくなる。まさしく“全てをハッピーに変える”曲、これぞ“New Party’s rule”。
03.「Your Smile」
アルバム『Sphinx Rose』収録曲。アコースティック・ギターの切ないアルペジオと柔らかいコーラスが印象的な膨らみのあるナンバー。自分の好きな食べ物の名前を呟くように歌い、何度も紡がれる“Your Smile”という言葉。笑顔というものは何気ない、素朴なものだが、そういうものほど美しく大切なものなのだ。静かに目を瞑り大事な人を思いながら聴きたい曲。
04.「原爆とミルクシェイク」
アルバム『Johnny Hell』収録曲。底抜けに痛快な、ベンジー流の世界平和を願う歌。ユーモアと躍動に溢れたバンド・サウンドの中で轟くベンジーの早口と、耳に残る“ホワイトハウスを黒く塗りつぶせ”という言葉。シュールという一言では片付けられない、熱い思いが込められている。間奏で展開される2本のギターに、背筋が凍るほどの内なる怒りを感じたのも事実。
05.「FRIENDLY」
2009年7月発売の5thシングル。太陽が爛々と輝く広大な大地が舞台の青春映画を彷彿させるアコースティック・ナンバー。じんわりと心に滲んでいくギターの音色と、全てを包み込み浄化するようなヴァイオリンの響きは、どこまでも続いていく終わりのない旅に誘うようである。それは人生という旅なのだろう。優しく背中を押されるような、力強さに確かな勇気を貰った。
06.「スケルトン」
アルバム『Sphinx Rose』収録曲。マイナー・コードのメロディがアダルティな色気と渋みに満ちたナンバー。紳士的な空気に潜む危険な香りにどんどん飲みこまれていく。何かを牽制しているような緊張感。大きな爆発がある楽曲ではないが、とにかくロマンティックでクール。妖しげな囁き声のコーラスは媚薬を投与するが如く、どんどん曲の世界に引きずり込んでゆく。
07.「危険すぎる」
2006年7月発売の1stシングル。ソロ・プロジェクトの幕開けであり、コーラスで椎名林檎が参加したことも影響して、ベンジー・ソロと言えばこの曲という印象も強いのではないだろうか。映像を鮮明に脳裏に叩き出す歌詞と、ジャジーなロックン・ロール・パンクスはどこまでもスリリング。耳をぶち抜く低音と、不安定な旋律を奏でるギターと、かすれた歯笛の音。心を一気に攫われる。
08.「宇宙の果て」
アルバム『CHELSEA』収録曲。SHERBETSのメンバーである福士久美子がキーボードで参加しているのもあり、SHERBETSが持つ空気感に近い。内省的でディープな部分を解き放ち、流れに身を任せ静かに漂うファルセットのコーラスが耳から離れない。緊張感のあるバンド・アレンジが少しずつどんどんスケールとスピードを増し、言葉をより一層強靭に引き立てる。
09.「リトルリンダ (CORKSCREW mix)」
アルバム『Rod Snake Shock Service』収録曲のニュー・ミックス・ヴァージョン。曲の前半はマイナー・コードが際立つ、爽やかさと同時に憂いを佇ませる展開を見せるが、後半からは雨上がりのようなポジティヴなエネルギーで突っ走っていく。不安定な走りから、力強い走りに変わっていく音の展開が生々しくリアルだ。この世界への、生きていくことへの希望が詰まっている。
10.「コヨーテ (CORKSCREW mix)」
アルバム『CHELSEA』収録曲のニュー・ミックス・ヴァージョン。ピアノの音色が特徴的なミディアム・ナンバー。静かに響くピアノは山水のような純粋な透明感、淡々と刻まれるリズムは土を蹴る動物たちの足取りのようだ。見たことのない風景だけれど、何だか懐かしさを感じてしまう。この曲に限らず、そういう風に思わせる不思議な力がベンジーの歌には宿っている。
11.「Hello」
アルバム『Johnny Hell』収録曲。SHERBETSのメンバーで制作されている。歌詞との相乗効果で、非常に美しいパーティーのドラマを見ているような気分になる。信頼している仲間がいれば、つらいことも笑って乗り越えられるし、どんな思い出でも全てが愛しく思えるのだ。それはとても幸せなことだが、当たり前のことなのかもしれない。大切な仲間と旅に出たくなる1曲。
12.「Mad Surfer (album ver.)」
2009年8月発売の6thシングルの、アルバム『Sphinx Rose』収録ヴァージョン。気だるさの中にある確固たるロマンチシズムに陶酔。これだけで私はサーフィンを始めたくなってしまった。本人が意識しているかは分からないが、ベンジーには聴き手を自分の世界に引き入れるパワーがある。それはやはり、彼が自然体で、出来る限り生きることを楽しもうとしているからではないだろうか。
13.「FIXER」
2007年4月発売の3rdシングル。ソリッドでダークなサウンドに、無邪気な遊び心が至るところで迸る、ベンジーらしいロックンロール・ナンバー。カー・チェイスさながらの激しい爆走具合が脳味噌まで鳥肌を立たせ、この音にベンジーの唯一無二のヴォーカルが入ることで危険な甘さに拍車が掛かり、血沸き肉躍るほどの快感を呼び起こす。思考回路不要、爆音で是非。
14.「SPRING SNOW」
2009年3月に配信限定でリリースされ、その後7月発売の5thシングル『FRIENDLY』に収録。アルバム『Sphinx Rose』のラストも飾っている。シンプルなアコースティック・ギターは粉雪のように輝かしくもあり、白く染まる吐息のようにあたたかくもあり、涙のように重くもあり、桜の花びらのように儚くもある。悲しげなのに優しさにも満ちていて、気付けばこの曲の虜になってしまっていた。
15.「Johnny Hell」
アルバム『Johnny Hell』収録曲。この曲も「Hello」同様、SHERBETSのメンバーで演奏されている。曲の持つ緊張感とベンジーの痛烈な叫びが心の奥まで迫り、激しく揺さぶる。音楽で世界を変えられると思っていなければここまでの切迫感を出すことは出来ないだろうし、その切迫感の中に希望の光を描くことも出来ないだろう。この世が変わると思うからこそ、彼は悲しくも力強く叫ぶのだろう。
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