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Japanese

カジヒデキとリディムサウンター

2010年11月号掲載

カジヒデキとリディムサウンター

Writer 島根 希実

カジヒデキとRIDDIM SAUNTER。両方のライヴを見たことがある側から言わせてもらうと、『ちびまる子ちゃん』でいうところの、花輪君と大野君&杉山君コンビに「ベイビー、実は僕たちマブダチだったんだよ」なんてカミングアウトされてしまったくらい、驚きの組み合わせだ。だって、そのルックスと佇まいからは結びつかない2組じゃないか。正直言って、アンバランスだと思っていた。ところがどっこい、こりゃどうだ。ふたを開けてびっくり。相性抜群じゃないか。

“しっくりきすぎている”この感じは、“コラボ“”や“共作”といった前置きは相応しくない。「新人アーティストのデビュー作が完成しました!」というべき。カジヒデキとRIDDIM SAUNTERではなく、“カジヒデキとリディムサウンター”という新しいバンドが誕生したのだから。

それにしても、こうして聴いていると、前述の通り、ルックス的にはとても協和しそうにない両者だが、改めてそれぞれの音楽を聴いてみると、ポップ・シーンという枠組みの中では対象的かと思われたそれぞれの個性が似た色を持っていることに気付いた。

冒頭で、2組が結びつかないその最大の理由を、アニメのキャラクターに置き換えてみたが、これっていうのは、つまり、学校のグループでいうところの体育会系と文化系ということなのだ。当然、体育会はRIDDIM SAUNTER。カジは文化系。つまりそれぞれ同じポップ組に属していながらも、その思考はやスタイルは異なるというわけだ。じゃあ、一体どこが同じなのかといえば、共に自分の属する系統の中でも、かなりのマイペースであるというところ。この2組、揃ってなかなかのKYなんです。具体的なKYポイントは、その“ポップ具合”。ポップのレベルが、一般常識から大きくはみ出しているのだ。

RIDDIM SAUNTERのステージ、あの肉体的で開放的なステージを見たことがある人ならば分かるはず。本来はナイーヴであるはずのポップという要素を、その圧倒的なポジティヴィティでもって、力強いものへと転換してしまう様は、ラヴリーなものが突然マッチョになるくらい、本来はあり得ないことを具現化してしまっているのだ。まさに、非常識。ポップの既成概念をぶち破っている。

では、カジヒデキは?当然間逆です。ラヴリーなものをよりラヴリーに。ポップの本来のイメージをさらに掘り下げていくわけ。ポップ×ポップ×ポップ×ポップ…どこまでもポップしていくのがカジのやり方なのだ。でもこれって甘すぎない?そうなのです。甘すぎるのです。そこが彼のKYたる由縁。いわば、やりすぎなスウィーツ攻撃なのだ。アイスクリームの上にバナナ、その上にチョコレート、さらにホワイトチョコレート、まだまだいくぞ、ドーンとのせるのはあんこと練乳。そうやって、しつこいくらいにポップで、過剰にポップであろうとする、甘ったるさの中に酔いしれるのがカジヒデキというポップ・マエストロなのだ。

では、クラスの中で体育会系のKYと文化系のKYが出会った場合どうなるのか。その答えが本作『TEENS FILM』だ。カジの繊細さとリディムの力強さ。カジのキュートさと、リディムの雄々しい熱さ。甘く中性的なヴォーカルと爽やかで男らしいヴォーカル。ポップという柱を掲げた2組は、互いの個性を差し引きすることはせず、“自身の描いてきたポップ”を貫き、妥協なく真っ正直に自分の個性を出しきった。その結果、2つの個性は喧嘩するどころか、リラックスして肩寄せ合ってしまった。力の抜けた無敵のポップ・ソングが出来上がったのだ。全ての要素は倍増した…いやこの華やかさはそんな次元ではないぞ。倍の倍の倍の…このポップ指数は換算できません。眩しく楽しい心地良い音とメロディは、四方に飛び散り、花火のように打ち上がってみたり、ころころと転がってみたり、跳ねまわるものもいたり。思わず言ってしまいそうになる。これってなかなか至極のポップ・ソングしてない!?

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