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LIVE REPORT

Japanese

Rei

Skream! マガジン 2021年08月号掲載

2021.07.03 @日本橋三井ホール

Writer 石角 友香 Photo by 上飯坂一

今年2月に東京で一度きりで開催されたアルバム『HONEY』リリース後のライヴ以来の今回。タイトルには"Acoustic Tour"とあるが、弾き語りの聴かせる類のそれを想像したらとんでもない意外性に驚かされる。今回は東名阪の初日の東京での夜の部をレポートする。

ステージ上にずらりと並んだエレクトリック、アコースティック、クラシック・ギター。エレキだけでもソリッドやシンラインなどReiの分身のようなギターが10本居並ぶ。タクシーを拾って、地下のクラブに到着したかのようなSEが流れ、ツアーのトレーラー同様白Tシャツにチェックのパンツ、ハット姿のReiが主演女優よろしく登場。オープナーはこのツアーのために書いたオーガニックな「Riverside」だ。続いてはスライド・ギターを弾きつつ、キックも踏むワイルドな「B.U.」。さらにラップ・パートも小気味よい「JUMP」で、明らかにReiとギターのみの最小編成だからこその自由度を思い知る。スタンドマイクを使わず、前述のバンド・セットのときと同じく、ヘッドセットで思うがまま動き回れるスタイルも、曲ごとにその主人公に感情移入できるのだ。「ORIGINALS」では自然とクラップが起こり、ロマ音楽的なフレージングを挟んだり、そのエキゾチックなニュアンスにトーキング・ヴォーカルを乗せたり、原曲はありつつも瞬発力で一期一会のプレイが飛び出すのがなんともスリリング。グッとロックンロール且つスウィンギンな「Route 246」では、ギターをメンバーに見立てて紹介した。ギターの機種名なのに、例えば"フェンダー・テレキャスター!"とコールされると、そこに人格が立ち上がるように感じる。

"こんなに長いメンバー紹介ないね。大家族のあるじみたい。ツアーのタイトルにもある「マホガニー」はギターの木材なんだけど、私はギターを選ぶとき、香りで選ぶんです。ほんとです"というMCには、彼女にとってのギターが単に楽器という存在を超えたお守り且つ親友であることを推察。10本のギターという"ひとりひとり"の個性を引き出し、Reiと化学反応を起こす。それがこのツアーのテーマなのだろう。

作った当時は遠距離恋愛や会いたい人にすぐ会えない気持ちがテーマだったが、今、この時世にフィットすると感じて選曲したという「Silver Shoes」の乾いたロード・ムービー感。この旅を想起させる演奏や音選びは彼女の個性だ。また、事前にカバーも含め、リクエストを募っていたコーナーが個人的にも素晴らしかった。いわく、"私が尊敬する大人の女性は、Joni Mitchellと矢野顕子さんなんですが"という説明を受けて、矢野顕子初期の名曲「気球にのって」のカバーを披露。ファンクとブルースを独自に昇華したオリジナルのアクの濃さをギターと歌で表現する。未練を断ち切る歌詞もドープで、Reiの別の顔を見た思いだ。このカバーに「Broken Compass」を接続したのもお見事。

曲に合わせてギター・チェンジするなか、彼女のテレキャスター・シンラインはスペシャルな仕様で、本来軽いはずの機種が重いと説明。だが、このギターの優しいけれど不器用な音色と会話するような「Categorizing Me」は、歌唱の素直さが特に胸に迫り、10本のギター=メンバーを用意した必然性をじっくり噛みしめることができたのだった。ギターそれぞれの個性はサウンドとルックスの相乗効果にももちろん波及。ファイヤーバードを弾き歌い、ガレージのニュアンスもあるハードな「LAZY LOSER」もパワフルに響きわたった。

前回の有観客から約4ヶ月ぶりのライヴに"感動しとるんですよ"と、照れなのか言葉尻にも拍手が起こる。次回の共演ライヴには音楽的な趣味も似ているという藤原さくらを迎えるのだが、次の予定を告知できる嬉しさも溢れていた。

そこからのラスト・スパートはバンド・セットにも勝るとも劣らない熱量で、まさに今回のステージ演出にぴったりな、地下のクラブで自分を解放しまくる「Lonely Dance Club」。オリジナルの"DEATH JAZZ"フレーバーとサイコビリーが彼女の中で激突/融合して、タフなヒロインが出現した。さらに事前にSNSで"何か音の鳴るものを持参して"と呼び掛けていた通り、声が出せない時代のライヴのコール&レスポンスを実行。「DANCE DANCE」でオーディエンスは、持参したスプーンやお箸などを鳴らしてお馴染みの声出しに応戦するのだ。鳴りものがない人はハンドクラップで参加。みんな、彼女のフレキシブルなライヴ・スタイルやアイディアに慣れている印象で、会場が一気に賑やかに。

"東京、まだまだ行けますか? スタンドアップ!"と叫んだReiは導火線に火がついた感じで、ライヴのキラーチューン「BLACK BANANA」をアコギでパーカッシヴにグルーヴさせる。ソロもエフェクティヴではないのに確かなカタルシスを生んでいた。根っこにブルースがあるギタリストにしか成し得ないプレイだと思う。本編ラストは、ドラマチックでヘヴィなソロから世界観を立ち上げていく「What Do You Want?」。BPMを上げていく演奏の中で、キックが走ろうが、自然と着火したエネルギーを止める術はない。全力の歌唱とプレイで潔くエンディングを決めると、清々しいぐらい素早くステージをあとにする彼女。もちろん、スキルがあるからこそ可能な弾き語りライヴだが、溢れるエモーションを型に押し込むことなく、最後は炸裂させたアティテュードは無二だった。

アンコールに現れた彼女は目の前にいる生身のオーディエンスの存在に感謝し、ギターと自分だけのライヴにちなんで、小学1年生のとき、初めて直感で選んだクラシック・ギターを、抱えながら紹介。なんでも当時の彼女には大きかったが、直感で選んだそうで、今も活躍しているのだそう。"歯磨きやご飯食べるより前にギターを弾いてて、そのままお昼になっちゃったりもする"という彼女は、常に音楽の純粋な楽しみを見つけたいのだと話す。以前は帰国子女で言葉のコンプレックスも持っていたが、ステージで歌うことで居場所を見つけ、ここでできることを知って、みんなとも出会えた――思いが溢れて涙声になる彼女に貰い泣きする人の気配も感じる。人前でライヴを行うことが難しいからこそ、その存在の大きさに気づいたアーティストは少なくないように思うが、特にコロナ禍以降に制作した『HONEY』以降の彼女はより壁がなくなった。"楽しい時間はあっという間っていうような曲です"とそのままの気持ちを話し、「matatakuma」を、想いを込めて歌う。長い付き合いのギターの音色が優しく、力の抜けたあどけなさも残るヴォーカルも心の柔らかいところに染み込んでいく。ラストは、パキパキに乾いたギター・サウンドと変幻自在のファンキーなリフ連発の「COCOA」だ。今この瞬間こそがヘヴン――このリリックの尊さ。バンド・セットのモンスターぶりとはまた違う、ひとりで場を支配し、転がすミュージシャンとしての度量の大きさを再確認した濃厚な時間だった。

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