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LIVE REPORT

Japanese

きのこ帝国

Skream! マガジン 2015年02月号掲載

2015.01.21 @赤坂BLITZ

Writer 齋藤 日穂

昨年9月にリリースした先行シングル『東京』、そして2ndフル・アルバム『フェイクワールドワンダーランド』がきのこ帝国をここまで大きなバンドにしたのかと思うと、彼女たちの歴史が変わる瞬間に立ち会えたのだと改めて実感する。何より、作品がそれだけ素晴らしいものであり、これまでのきのこ帝国からは考えられないような自由さと暖かさをきちんと正面から受け入れた懐の深い最高傑作に仕上がっているのだから、"じゃあライヴはどうなんだろう?"と期待せずにはいられなかった。あの温もりを、開放感をどうやって表現するのだろう。あんなに開けた作品を引っ提げて今までの混沌とした楽曲たちはどうやって奏でるのだろう――。一段と冷え込んだ1月21日の夜、リリース・ツアー"CITY GIRL CITY BOY"赤坂BLITZでのワンマン・ライヴで、彼女たちは現在の集大成といえる姿で全部見せてくれた。

"こんばんは、きのこ帝国です"という佐藤(Vo/Gt)の挨拶を経て「海と花束」で会場を瞬く間に轟音の渦に巻き込んでいく。心臓を叩くような力強いバスドラを基盤にして、音と光の濁流の中で4人はしっかりと足をつけていた。
"クロノスタシスって知ってる?"といたずらっぽくオーディエンスに投げつけて夜の散歩に繰り出す。隣に歩く"君"に話しかけるみたいに、無邪気に奏でられる「クロノスタシス」では会場中がその心地良さにゆらゆら揺れていた。
そして「You outside my window」、「国道スロープ」の流れでは疾走感と攻撃力を持って私たちを圧倒して見せた。"3年前のあなたの台詞が傷つける"と何度も繰り返して歌う「国道スロープ」の混沌とした世界に彼女たちはもういなかった。いつかの日に傷つけられた言葉も台詞も飲み込んで、そしてそれを怒りや悲しみといった負の感情で表現するだけではなくなったのか、と化け物みたいな音圧を浴びながら確信した。混沌とした感情の中で分かり合える人だけでいい、全員ではなくていいから自分と同じような気持ちの人に伝わるならいいんだ、というこれまであった諦めにも似た心情を昇華させたのだ。同じ泥沼の中で一緒にうずくまることをやめて、きのこ帝国はそこから歩き出している。

続く「パラノイドパレード」を聴いてますます実感した。ポスト・ロック/シューゲイザーと表現されることの多い彼女たちのサウンドはどんどん磨きがかかっていて、音の厚みも一段と増している。あーちゃんの空気を切り裂くような歪んだギター、谷口滋昭のベースと西村"コン"のドラミングから生まれるどっしりとした音の地盤、そして佐藤のヴォーカリストとして表現力は圧倒的に高まっている。過去の自分たちをなぞるのではなく、もはや生まれ変わったかのような感覚だった。青い花柄のワンピース、脱げかけた黄色いサンダル、こんなにも夏を歌っているはずなのに乾いた冬にぴったりの空間を作り上げていた。

ひとりよがりの気持ちを絶唱する「夜が明けたら」、爽やかに別れを歌う「疾走」、丁寧に紡がれるアルペジオの中で佐藤とあーちゃんの柔らかい声が印象的な「明日にはすべてが終わるとして」と過去から現在まで網羅するように奏で、そして佐藤が"心を込めて、この曲を歌います"と語り歌いだしたのは「東京」。"あなたに出会えた この街の名は東京"とワン・コーラス歌い終えた瞬間、目がくらむような光が会場を包む。それは、照明だけの問題なんかではなく、きのこ帝国の4人から発せられたような感覚だった。初めてこの曲を聴いたとき、きのこ帝国は、この曲を作った佐藤は、この街で大切なものを見つけたのであろうと思っていた。しかし何度も聴いているうちに見つけたのではなく、大切なものをやっと素直に歌えるようになったのだと気づいた。佐藤の中には以前から大切なものがあったにも関わらず、あえてそこを避けるような歌い方をしてきただけで、本当は知っていたのだ。今のきのこ帝国の代表曲と言っても過言ではないこの名曲を4人は丁寧に、そして楽しそうに高らかと奏でた。

アンコールで出てきた4人は"FWWL"(フェイクワールドワンダーランド)と書かれたキャップを被り、肩を組んで登場。たまに見せるこういったお茶目な部分がずるいな、と思いながらニヤニヤしてしまった。この日最後に鳴らされたのは「Telepathy/Overdrive」。一気に駆け抜けていくその勢いで、今の4人だったらどこまでも走り抜けていける。明日も明後日もその次の日も飛び越えて、私たちにもっと先をみせて欲しい。そんな余韻を強く残していった。

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