Overseas
THE NATIONAL
Skream! マガジン 2011年12月号掲載
2011.11.09 @duo MUSIC EXCHANGE
Writer 中里 友
“待望”とは、まさにこのことだろう。本国アメリカで熱狂的な支持を誇る彼らが長らく日本でライヴをしなかったのは、ファンとしては歯痒いとしか言いようがなかった……だがしかし、ようやく!震災の影響で順延したものの、THE NATIONALはやってきた!と、半ば興奮混じりの書き出しとなってしまったが、決して大げさではない。今回の来日公演の会場はshibuya duo MUSIC EXCHANGE。10年以上のキャリアを誇り、前作収録曲はオバマ大統領のキャンペーン・ソングに抜擢され、最新作『High Violet』は全米3位……という、バンドのキャリア、人気度からはキャパシティが小さいようにも感じるが、こうして間近で観れるとは、全く持って貴重だ。当然この日のチケットはソールド・アウト。チケットを入手出来なかったファンもライヴ・ハウスの外に溢れており、皆が皆、期待に胸を昂ぶらせてこの日を楽しみにしていたことを伺わせる。そしてそれは、THE NATIONALの登場と同時に向けられた、観客の溜まりに溜まった期待感が放出されたような歓声を聞いた時、確信に変わった。
THE NATIONALは2組の兄弟から成る楽器隊に、ロマンティックながらも批評的な詞を聴かせるバリトン・ボイスが特徴的なボーカリストMatt Berningerを加えた5人組。この日はさらに管楽器隊2人をサポート・メンバーに迎えた7人態勢でのライヴとなった。挨拶代わりの1曲目は「Runaway」。これだ。沸々とした力強さを携えながら、流麗かつ穏やかな楽曲に、スタンド・マイクを手に歌われるMattのハードボイルドで、儚い声。新作からの曲が中心とは言え、初来日ということもあってか、過去の名曲も惜しげなく披露するセット・リストに、客席からは毎回大きな歓声があがる。
5曲目には最新作のハイライトとも言える「Bloodbuzz Ohio」。メンバーの故郷であるオハイオにも、活動拠点となるNYにも、自分の居場所はないのだと悲痛に歌われるこの歌。次第にエモーショナルになっていくMattのボーカルに胸を熱くさせられる。彼の歌も次第に叫びに変わっていくのだが、他でもないそれはアメリカの現状を象徴しているように思えた。曲間のMCも流暢で、非常にリラックスしている様子が見てとれたのだが、それにしても、序盤から飲みすぎだろとツッコミ入れてしまいたくなるほど酒が進むMatt(笑)。ヨレたスーツをまとい、ワイン・グラス片手にステージを右往左往。しかし曲が始まりヴォーカリストに立ち戻ると、スタンド・マイクを幾度となく壊しながらも力強く歌い、そして叫んだ。
アンコールでは、アッパーな「Mr. November」、そして「Terrible Love」ではMattが観客にもみくちゃにされながらも客席一週を敢行(!)。最後の「Vanderlyle Crybaby Geeks」は管楽器隊とアコギの生音にMattも肉声で歌うという完全アンプラグド。“ホントにここは日本か?”と耳を疑う程の熱狂的大合唱を巻き起こした。それは、皆がひとつになった瞬間であり、共に居場所を作り上げる儀式であったに違いない。アーティストと観客の心が通じる様な素晴らしいライヴだった。近いうちにまた来日してくれることを祈る。
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