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LIVE REPORT

Overseas

THE XX

2010.05.14 @代官山 UNIT

Writer 伊藤 洋輔

― 冷徹な美しさが齎す低温火傷のエモーショナル ―

いったいどれほどの体験をしたらこの境地に辿り着くのか?しかも若干20歳そこそこで。最小単位で紡ぐ言葉、サウンド、その一音一音が鳴り響く空間はあまりにも深遠で、漆黒の闇夜を想起する世界だった。その世界に身を投じれば浮かび上がる数々の情景……無限の解釈を孕んだグルーヴは、重く、冷たく、抗うことのできない浸透力を湛えている。激しく踊る者は皆無だが、数々のオーディエンスは微弱に揺らいでいた。きっとこのグルーヴが導いた心象風景に酔っているのだろう。ソールドアウトとなった一夜限りの初来日公演、代官山UNITはその無数の解釈がどこまでも膨れ上がり続け、“奇妙な”温度を呈していたように感じた。鳴り響くサウンドはどこまでも冷たいのに、イマジネーション豊かなオーディエンスの熱は上昇するばかり。低温火傷のエモーショナルが充満する空間、とでも形容しようか・・・。

昨年リリースしたデビュー・アルバムは、Pitchfork、NME、Rolling Stone、UNCUTなどあらゆるメディアのベスト・アルバム・ランキングで高順位を記録し、イギリス勢の新人では最も評価の高いバンドとなったが、個人的にも昨年最も興味深いバンドとなった。ギター、ベース、サンプラーの3ピースから紡ぎ出される簡素なサウンドで描く世界観には、80年代初頭に活動したYOUNG MARBLE GIANTSを思わせるもので、情報が等価となったネット世代のGIANTSフォロワーかと一瞬頭を過ぎったが、ビートに反映された重みには、ダブ・ステップ、ヒップ・ホップと現代を体現したものが基調となっていた。彼らのインタビューを読むと、それはロンドンのクラブ・シーンからの影響だと発言していたが、それを主軸に、微かに流麗なフレーズを散りばめながら構成された静謐な世界は、ストレートな威力はないものの、聴き手は小さなジャブを打たれ続けるようにダメージを蓄積させ、確かな印象を与える世界だ。その効力にやられた結果が評価に繋がったのだろうが、パフォーマンスでもその効力は存分に伝わるものだった。

アルバム同様に「Intro」でスタートしたが、続く2曲目から「Crystalised」~「Islands」~「Heart Skipped A Beat」~「Fantasy」~「Shelter」の流れは素晴らしかった。サンプラーから紡ぐキック音や野太いベース・ラインがズブズブと深みを宿し、相反するようにか細いギターの旋律と囁く歌声が美しい流れを描く。まるで叙情的なストーリーテリングを聴かせるような流れを感じたが、なかでも「Shelter」は紅一点Romyの官能的な歌声が印象的で、スリリングなまでの美しさにゾクゾクさせられた。その後も「Basic Space」「Night Time」など鉄壁のアンサンブルを繰り広げ、終始緊張感が張り詰めたパフォーマンスは圧巻の一言。ほぼアルバム全曲+Kylaのカヴァー「Do You Mind?」で1時間たらずのステージだったが、物足りなさなど微塵も感じない、オーディエンスに確かな何かを残した内容だった。

そういえば、ステージ後方には巨大な“X”が描かれた垂れ幕が掲げられていた。そのマークに、80年代USハードコアを代表するMINOR THREATのIan MacKayeが提唱した“ストレート・エッジ”を思い出してしまった。その思想は“アンチ・アルコール アンチ・ドラッグ アンチ・フリー・セックス”という意味を持ち、フォロアーは手の甲に“×”印を書いていた。必要最低限のエレメンツで描くTHE XXの世界観は、現代のストレート・エッジと呼びたくなるほどストイックなものだ。ただ、彼らの音楽には思想のようなものは存在せず、クラブで楽しみながら単純にかっこいいものを突き詰めただけなのだろう。しかし本当に20歳なのか?ライヴからしばらく経つが、あの時受けたジャブのダメージがいまだに抜けずにいる。

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