Overseas
PATRICK WOLF -BRITISH ANTHEMS-
2009.12.06 @新木場STUDIO COAST
Writer 佐々木 健治
おそらく、新作『Bachelor』の世界観に戸惑った人も多いだろう。あの絶望の日々をそのまま音に閉じ込めたような作品には、これまでのPATRICK WOLFのイメージからはかけ離れた強迫観念のようなものが滲み出ていた。翌日のインタビューでも、パンドラの箱のようなものだから、もう開けたくないものだと自分で言っていた。
しかし、そのパンドラの箱を開ける作業であるライヴは、とてもドラマチックでPATRICK WOLFという一人のエンターテイナーの実力を見せ付けられるものだった。
多分、この過剰性は好き嫌いが分かれると思う。だけど、ここまで自己を肥大化させた上で、人前に晒そうとするミュージシャンは今となってはほとんどいないだろう。等身大をよしとする風潮が多勢を占める中で、ステージで演出から何から過剰なまでに徹底して届けようとするタイプのエンターテイメントは久しく観ていなかった。もちろん、短いセットなのでその一部分という感じではあったけれど。
等身大では追いつかない世界観を彼が持っているからこそ、彼はユニオンジャックが全面に施された派手な衣装を纏い、サービス精神満点で短いセットにも関わらず、衣装まで変えてしまう。その過剰性ゆえに、彼はポップ・アイコンに祭り上げられてしまったのだろうが、曲の世界観に入り込み、ステージを動き回りながら歌った直後には、愛嬌タップリにMCをする彼はとても自然体で楽しげだった。そこには、余計なプレッシャーから開放された今の彼が心から音楽を楽しんでいる様子が伺えた。ライヴ中に怒り狂うこともあるなど天才肌特有とでも言うべき二面性を持っていることも知られているので、もしかしたら何かあるんじゃないかと心配もしていただけに、楽しげな彼の姿はとても印象的だった。
ラストの「Hard Times」での大合唱は鳥肌が立った。フル・セットのライヴを観たいと思ったという意味では、この日一番よかったのはこのPATRICK WOLFだ。このライヴを観て、新作がとても楽しみになった。
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