冒頭から焦燥感や揺らぎに脳髄を侵食されていくような、圧倒的な音像。しかし、Track.5「Have a good night」、Track.6「resistance」あたりからは、より率直で、人肌の温度を感じる音や言葉たちがゆるやかに滲み出してくる。その変化はまるでこの2020年という1年を経てバンドに訪れたメンタリティの変化そのもののようで、愛おしく、今年誰もが抱えていたであろう閉塞感や不安を、優しい手で解してくれるような心強さすら感じられた。バンドとしては異例となる1年に2枚目のアルバムだが、[2020年でないと"作れなかったアルバム"であり"作らなかったアルバム"]であると福永浩平(Vo)が語る通り、まさに今、生まれるべくして生まれた作品と言って過言ではない。
"popという言葉の概念をひっくり返してやるつもりでアルバムを作った"――福永浩平(Vo)がそう想いを込めた作品に掲げたタイトルは"Change your pops"。彼らはインディーズのころから自分たちの音楽に信念を持っているイメージがあったが、2ndアルバムでは意志と自信が相乗してか、もはや挑戦とも言える1枚になっている。実験的なサウンド効果をアート性高く散りばめた、スタイリッシュで現代的なポップ・ミュージックを印象づける楽曲群。しかし、日常に流れるBGMのような肌触りと、心に寄り添う言葉を併せ持っていて、その音に身を委ねたくなるほど心地いい。加えて、3曲も配置されたインタールードはアルバムをトータルでドラマチックなものにしているし、日常にある幸せを歌った「morning」が最後を飾ることで、胸の中にあたたかい余韻をくれる。
フロントマンの福永浩平は必ずステージの上で"本気で日本の音楽シーンを変えようと思っている"と話す。そう言うことで、自分を奮い立たせているようだ。表題曲はそんな彼の決意を正直に綴ったもの。ポスト・ロックとダンス・ビート、ポップスを掛け合わせた雨のパレード流のエモーショナルなトラックは、そのメッセージをどこまでも走らせるように広がっていく。カップリングにはループ・ミュージック的アプローチの「1969」、マイナー・コードの鍵盤が象徴的で、ヒップホップやソウルの要素も取り入れたクールな装いの「free」、初期の楽曲「ame majiru boku hitori」のリアレンジ・バージョンを収録。それぞれでバンド・サウンドの範疇を超えたサウンドスケープを堪能できる。
音楽以外のクリエイティヴ面でも洗練されたセンスを見せ、"アート・ロック・バンド"と称される雨のパレードによるメジャー1stシングル。その高い美意識で描く、静謐な夜のような情緒溢れるサウンドスケープはそのままに、今作ではかつてのポスト・ロック的アプローチは影を潜め、高純度のポップ・ミュージックに寄り添った印象。研ぎ澄まされたエフェクティヴな音の粒は楽曲を彩り、福永浩平(Vo)の柔らかな歌声は耳に溶け込むような心地よさだ。"楽しい"を描いた「In your sense」、"幸せ"を綴った「morning」、そしてその存在の大切さに気づいた「You」――どの曲も、一番そばにいる"あなた/君"との"飾らない毎日"が中心にあり、それぞれタッチをほとんど変えることなく心境や関係性の微妙な差異が表現されていて、シングル1枚としての作品性も高い。