Overseas
X AMBASSADORS
2024年06月号掲載
Member:Sam Harris(Vo/Gt)
Interviewer:菅谷 透 Translator:安江 幸子
みなさんは、生まれ育った街にどんな想いを抱いているだろうか? X AMBASSADORSのフロントマン Sam Harrisは子供の頃、故郷であるニューヨーク州郊外の街 イサカを出ていきたくて仕方なかったのだという。本作『Townie』は、そんな彼が時を経てイサカでの日々を愛とともに振り返る作品だ。ガソリンスタンドで迎えた朝、恩師の言葉、生まれつきほぼ全盲の兄 Casey Harrisと家族の絆――本作で綴られているのはパーソナルな内容だが、聴けばきっと自分の故郷に想いを馳せたくなるはずだ。そんなアルバムの制作背景について、Samに語ってもらった。
-2020年2月に初の日本公演を行いましたが、当時のことは覚えていらっしゃいますか? パンデミックの直前でしたよね。
そうだったね。本当に素晴らしいショーだったし、東京でプレイできて最高の時間を過ごせたよ。会場(渋谷WWW X)がクラブだったし、ヘッドラインのギグができてクールだったね。そのあと東京近郊の米軍基地でもライヴをする機会があったし。そう、2020年が初来日公演だったけど、2019年にインドネシアで非公開のショーをやったんだ。せっかく"そっち側"に行ったしということで、10日間オフを取ってひとりで日本に行こうと思い立ってね。初めてのひとり旅だったよ。それまでひとり旅は2回やったことがあったけど、現地で人に会っていたから、完全にひとりだったことはなかったんだ。10日間なんて長い時間ひとりで旅したのは初めてだった。人生が変わる経験だったよ。素晴らしかった。
-2019年にプライベートで来日した翌年にライヴでいらっしゃったのですね。そしてこのたびはニュー・アルバム『Townie』の発売おめでとうございます。リリースからもうすぐ1ヶ月経ちますが(※取材は4月末)、どのような反応がありましたか?
今のところすこぶるいい反応だよ。ファンからも素晴らしいフィードバックがあったし、僕が自分の故郷について書くというパーソナルな内容だったから、何年も連絡がなかった昔の友達からたくさんテキスト・メッセージが来たんだ。"これ、今も君の番号だといいんだけど"なんて書いてね(笑)。"君の新作を聴いたよ。昔に戻れた気がした"とか、"あの人のことを考えていたところだった"とか、"この曲に心を動かされた"とか書いてあって......正直言ってそれが一番クールな反応だった。どの反応にも心を満たしてもらっているけど、やっぱり故郷のイサカで一緒に育ってきた人たちからのコメントは別格だよね。あるショーでは若い女性に話し掛けられた。彼女も、僕が「Your Town」を書いた相手(恩師の故Todd Peterson)の教え子だったんだ。あの曲がどれほど感動的だったかを伝えてくれた。しかも、彼女は地元のP&C(P&C Fresh Markets)というスーパーで働いていたらしい。たぶん今もあると思うんだけど、あのチェーン店は僕が子供の頃はいくつか店舗があって、そのひとつで働いていたと言っていた。そういうちょっとしたコネクションの話を聞くのは本当にクールだったよ。
-昔の自分との繋がりも感じられたことでしょうね。ところで今作『Townie』のタイトルの由来をうかがえますか? また、バンドは2009年結成で、約15年のキャリアを築いていますが、このタイミングで過去を振り返るアルバムを出した理由も教えてもらえますか?
アルバムを"Townie(=地元の人)"と名付けたのは、それが僕だからなんだ。僕が育った町はカレッジ・タウン(大学のある町)で、大学生たちは僕たちのことをそう呼んでいた。
-つまり"イサカのローカルな人々"ということでしょうか。
その通りだよ。そのまんまの意味なんだ。それが僕であって、それはいつまでも変わらない。どんなに払拭しようとしても、他の誰かになろうとしても、僕はいつまでもニューヨーク州アップステート地方の小さな町の少年なんだ。不安で、シャイで、消えてしまうことを恐れていて。いつまでもそれが僕だよ。仮面を被って、そうじゃないって名演技をすることはできるかもしれないけど、やっぱりそうなんだ。それで、今回のアルバムを作るにあたっては、そういうことを心から理解することが本当に重要だった。その複雑さも深さもね。今こういうアルバムを作った理由? いろんな理由があるけど、パンデミックは間違いなくそのひとつだったね。あれがきっかけで、みんな自分の人生をそれまでよりじっくり見つめるようになって、自分自身に結構ハードな疑問を投げ掛けるようになった。自分は何を望んでいるのか、未来に何を求めているのか。今までの人生はどうだったのか。そういう質問が僕の頭の中にはたくさんあった。Toddが亡くなったことにも強く心を揺さぶられたよ。ものすごい罪悪感を覚えたし......。
-罪悪感ですか?
ああ。あまり具合が良くないと聞いていたのに、連絡するのを怠ってしまったんだ。しかも彼のほうから連絡があったときも、何かと自分の中で言い訳をつけて"今は折り返し電話ができない"、"今はメールに返信できない。取り込み中だし"なんて考えてしまっていた。でも実際は、単に自分が大好きだった人が弱っていくのを見るのが忍びなかっただけなんだ。それから、ちょっと"地元を離れた者としての罪悪感"もあったような気がする。あとで気づいたんだけど、僕の地元は、素晴らしいところなんだ。住んでいる人たちも素晴らしいし、あそこに住めることはラッキーだ。そして僕も、あの町で育つことができて本当にラッキーだった。あの環境はサヴァイヴァル的な過酷さなんてなかったから。人里離れた場所でこそあったし、それでいて複雑な場所でもあったけど、普通に努力を重ねていくことのできる町だった。そりゃ、アップステート地方にはその地方なりのダークさがあるけど......。
-どの町にもきっとありますよね。
そうだね。でも、このアルバムを作ることによって、あの場所への愛情がいっそう強まった気がする。それからそのプロセスを通じて、自分のことも前より少しだけ愛せるようになったかな。ちょっと陳腐に聞こえるのはわかっているけど(苦笑)、その人の人となりの多くは、その出身地で成り立っているような気がするんだ。そして僕は自分の出身地があまり好きじゃなかった。子供の頃はね。それが、今は愛しているんだ。愛しているし、とても大切に思っているよ。これが僕の歩んできた道なんだ。
-出身地そのものだけでなく、そこで育った自分自身のことももっと愛せるようになったと。素敵なことですね。ところでこれまでのアルバム、例えば1stの『VHS』(2015年リリース)や3rdアルバムの前作『The Beautiful Liar』(2021年リリース)は随所にインタールードが挿入されるなど、ストーリー性の高い作品になっていました。本作もインタールードこそないものの、アルバム全体を通してストーリー性を感じたのですが、どのような点を意識しましたか?
全体でひとつのものとして感じられるようなものにしたかった。僕はもともとあちこちに内容が飛びがちというか、"これはどうだ"、"こっちはどうだ"みたいな感じであれもできるこれもできるそれもできるってタイプなんだ。今回はひとまとまり、しかもひとつのサウンドにこだわることに、自分自身、それからバンドとしても挑戦したかった。......って言うのもなんだかバカバカしいんだけどさ。大半のバンドはたぶんいつもそうしているだろうから(苦笑)。たいていのアーティストは"よし、このアルバムの自分のサウンドはこれだ"ってちゃんと決めるものだと思うけど、僕たちはそうしたことがなかったんだ(笑)。クレイジーな話だよね、こんなに長い間やっているのにさ。でも今回はそうしてみた。まぁ、自分自身にフェアな言い方をすれば、前の3作にも間違いなく連続性はあったと思う。でも、今回はそれ以上に連続性があるんだ。だからこそ、インタールードみたいな"接着剤"を間に挟む必要がなかった。もっとも、昔からああいう(インタールードのある)構造のアルバムは大好きだったんだけどね。僕が子供の頃聴いていたヒップホップのアルバムにもそういうのが多かった。Kendrick(Lamar)のアルバムにもあったんじゃないかな。あとは『Ready To Die』(THE NOTORIOUS B.I.G.)とか『The Score』(FUGEES)とか、それからWyclef Jeanの『The Carnival』は僕にとってビッグなアルバムだね。あれは、彼が法廷にいるような設定で構築されていたんだ。興味深くて、面白くて、すごくヘヴィさが感じられるアルバムだった。僕たちの過去の作品にもああいう感じが欲しかったんだ。でも今回は、そういうのが必要ないような気がした。僕のストーリーテリングが、曲の内容に濃く存在しているように感じられたからね。
-たしかにそれはありますね。曲同士の結びつきが強かったから、"接着剤"がいらなかったのかもしれないです。
そうだね。それと、それぞれの曲の物語が際立っているからというのもあると思う。物語の上に物語を重ねているんだ。
-また楽曲のアレンジにおいても、今回は郷愁を感じるシンプルな編成ながら、ラストの「No Strings」では、従来のX AMBASSADORSのサウンドへと繋がっていくような構成になっていると感じたのですが、これは意図的なのでしょうか? アレンジ面で心掛けたことをうかがえますか?
「No Strings」はどうしてもアルバムに入れたかった曲なんだ。というのも、いい橋渡しになると思ったんだよね。自分的には「Renegades」(『VHS』収録曲)を思い出したよ。"あぁ、何か通じるものがあるな"と思ってね。あの曲があることで物語が一巡するというか、自分たちのバンドとしての始まりへのオマージュになる気がしたんだ。僕たちの曲を当時以来聴いていない人たちへの"オリーブの枝"(和解)になるとも思った。"僕たちの新しい世界に入っておいで"みたいな感じでね。僕にとっては招待状みたいな位置づけの曲なんだ。と言いつつ、あの曲もアップステート地方にたくさん言及していて、自分がそこで育ってきたことについて書きたいと思って書いたから、アルバムのDNAが深く根づいているよ。ヴィジュアルもその意図で作ったし、昔の作品を彷彿させる要素も意図的に入れたんだ。アルバム全体の音的には......今ちょうど自宅スタジオにいるんだけどさ。ここにはすごくクールなテープ・マシンがあってね。このテープ・マシンを手に入れてから夢中になって、今回のソングライティングのプロセスでたくさん使ったんだ。アナログの、粒子が粗いテクスチャがすごく欲しくてね。アルバム全体で使っているよ。アップステートでアルバムを仕上げたのも大きかったね。アルバムのアイデンティティの大きな一部になったよ。
-本作のレコーディングはイサカで行われたのでしょうか?
いや、イサカではなくて、キャッツキル山地にあるスタジオだった。ニューヨーク・シティからほんの1時間くらいのところだよ。イサカにもいいスタジオはいくつかあるけど、あまりに地元に近すぎてしまうのもな、という気持ちがあったんだ。書いている曲の内容が内容だったし、それで地元でやるとなると集中できないと思ってね。それで、アップステートではあっても自分が育ったところとは違う場所を探していたら、The Outlierというすごくいい場所を見つけた。そこに2週間宿泊してレコーディングしたんだ。真冬だったよ。まさに僕が求めていた環境だった。ああいう寒さの中で、隔離された環境で作りたかったからね。
-アップステートの冬は寒そうですが、ある意味一番いい季節かもしれないですね。
僕は大好きだよ。ものすごく寒いけどすごく雰囲気があって......僕の子供時代の大半はそういう環境の中で過ごしたものなんだ。
-本作のMVやヴィジュアライザーも、イサカで撮影されたのでしょうか?
そう、ヴィジュアル面はすべてイサカやその周辺で撮ったんだ。すごく楽しかったよ。Dan Pfeffer(Daniel Fermín Pfeffer)という素晴らしい監督と一緒に撮ったんだ。彼は僕の幼馴染でね。8歳か9歳くらいの頃から知っている。
-彼も"Townie"なんですね。
そう、イサカの"Townie"なんだ。だから、僕がヴィジュアル面で何を求めているかもしっかりわかってくれた。まさにその通りのものを作ってくれたよ。このプロジェクトで再会できたのもとても楽しかった。ハイスクール時代や、ニューヨーク・シティで過ごした大学時代の初期にショート・フィルムを一緒に作って以来だったから、何年ぶりという感じだったけど、また一緒に組めて楽しかったね。
-ゆかりのある場所を訪れて、どんな感想を抱きましたか?
良かったけど、いつもちょっと変な感じでもあるんだよね。なんだか夢を見ているような感じ。ゆかりの場所だってわかるようでわからないような。それに何もかもちょっと小さくなったように感じるしね(笑)。
-たしかに(笑)。
イサカの町も急速に変わっていっているしね。昔は大学がふたつある坂の上だけに存在していたのが、今はその坂の下にある市街地と同化してきたんだ。大学生が繁華街の広場にたむろしていたりして、なんだか違和感がある。僕が住んでいた頃は、あんなところに大学生なんていなかったのに。それから、ニューヨーク・シティからアップステートに移住した人も増えているんだ。どんどん北上していて、今はイサカみたいなところにも来ている。イサカはニューヨーク・シティから車で5時間くらいかかるし、遠いんだ。それでも移住してきた人がたくさんいる。そんな感じで大きく変わってきてはいるけど、やっぱり帰るのは最高だったよ。ある意味とても悲しいことでもあるけどね。あの場所は僕にとって、過去の亡霊がたくさんいるところなんだ。
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