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INTERVIEW

Japanese

ドレスコーズ

2023年09月号掲載

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-ちなみに「最低なともだち」のミュージック・ビデオができたのはアルバム制作で言うといつ頃なんですか?

まずアルバムの中で「最低なともだち」が最初にできて、そのデモをメンバーに送ると同時に山戸さんにも送って、レコーディングと並行して山戸さんも準備に入って、曲の完パケと同時にミュージック・ビデオを撮影して。アルバムの本格的な制作は「最低なともだち」のビデオを撮り終えてからですかね。まず4~5曲ぶんぐらいのデモができた時点で1回レコーディングに入って、「少年セゾン」とか「襲撃」もそのときに録りました。そのあとまたさらに4曲くらい作って、レコーディングしてという感じですね。

-ミュージック・ビデオの完成を観てからのアルバムへのフィードバックはあるんですか?

あると思いますね。はい。

-あの映像をご覧になって、しっくり来たことや逆に意外だった部分ってありますか?

いわゆる異性愛ではなくて、同性間の親愛な思いをテーマにするというのは一致してました。年齢設定も10~14歳くらいの、まだ少年らしい季節の出来事っていう部分も一致していました。それこそ最初の打ち合わせのときに、僕と同じようなことを山戸さんも考えていらしたので、"ですよね"という感じ。だから唯一意外だったのは僕がああいう役どころだったことじゃないですか(笑)。

-志磨さんはまさに"散花"を行う役柄だったんじゃないですか?

なるほどなるほど。本当だ。アルバム・タイトルにも確実にフィードバックされてますね。

-"散花"はいわゆる供養みたいな意味もありますが、戦地で若くして戦死することみたいな意味もあるようで。

戦争によって生まれた言葉というわけではないにしても、まぁちょっと悲しい言葉ではありますよね。花のように儚く散るという意味ですから。

-美化してはいけない?

戦争以前からある言葉でしょうし、まさか美化するつもりなんてないですし、逆に言うと儚くない散り方なんてない気もするし。戦死であろうと天寿を全うしようと、人生はすべて儚いものとも言える。まぁ、つまりお別れのセレモニーというようなイメージで付けたタイトルですね。ジャケットのイラストをお願いした不吉霊二先生にもそのようなイメージをお伝えして、ひとつ前の『戀愛大全』に結婚式のような場面が描かれているのに対し、今回は卒業式、あるいはメキシコの「死者の日」のような祝祭の場面をお願いしました。メキシコのお葬式は賑やかで目にも鮮やかで、死者を弔いながら自分たちの生を祝福するというような話を聞いた事があるので。

-だから2作のアートワークのトーンが変わらないのかもしれないですね。

うん。思っていた以上の、さすがの仕上がりでした。

-冠婚葬祭って実は根は一緒なのかな? って感じがしますね。

本当そう思います。エミール・クストリッツァっていう映画監督が好きなんですけど、彼の映画のテーマはいつもジプシーたちの営みで、いつもお祭り騒ぎなんですね。村のどこかで"子供が生まれたぞ"と聞いたら楽団を連れてって、みんなでお祝いをする。お酒を飲んでグラスを投げて祝砲のピストルをパンパン撃って。次は"どこそこのじいさんが死んだぞ"といってまた盛大に騒ぐ。次は"あそこの娘が結婚するから"でドンチャンドンチャン。それを観るとたしかに人生の一大イベントって、生まれる、結婚する、死ぬ、これだけなんだなと思って。それ以外のことなんか大したことないんだなぁという気にさせられる(笑)。

-しかもそのイベントは似てるんですよね。

そうそうそう。あんまりそこに差はないんですよ。

-不吉さんのアートワークの理解が深まります。話を戻すのですが、自分に影響を与えた人が亡くなると言っても、例えばDavid Bowieと信藤さんでは距離が違うと思うんです。

横の遺伝という意味では一緒で、David Bowieも僕の中の一部ですけど、例えば実際の親と僕は一緒に曲を作ったことはないわけで。もはや僕の営み、生命活動の中で一緒に作品を作る人っていうのはある意味親よりも自分の人生に関わる人でもありますから。

-このアルバムにも信藤さんと創作をされてきた痕跡が一曲一曲に濃いテーマになって表れてる気がしますね。

そうですね。最初に話したエゴイスティックな感情、"謹んでお悔やみを"も言えないような気持ちが僕にはあったわけで、別れはいつだってどちらか片方が突きつけるもので、だからそういう意味では、今まで経験した別れとあんまり大差がないっていうか。それが失恋であろうが友達との諍いによる別れであろうが、あるいはちっちゃい頃に引っ越していった友達のことだとか、そういうお別れを自分たちは何回も何回も経験しているから。死別だってそんなに大差はない。ただそれが絶対的な別れと決まってるだけで。

-たしかにそうですね。今作は1曲ごとに、例えばロックンロールならロックンロール、ネオアコならネオアコみたいなものがすごい凝縮されているアルバムな気がしたんですよ。

ありがとうございます。音楽的にはどうなんだろう......その前に、忘れないうちにもう少し言い加えると、いろんな別れを人生で積み重ね、繰り返し、それらが一曲一曲になって、このアルバムを形成しているんだなと今、思いました。失恋であったり友達との別れであったり。話を戻して、音楽的にはどうなんでしょうね。

-具体的なことをおうかがいすると、レコーディング・メンバーはツアー・メンバーのみなさんですか?

はい。そうです。

-ということはかなりできあがってますね。

その通りです。『戀愛大全』から継続している今のバンドのサウンドが、今の自分の感性にとてもフィットしているんです。

-それは『戀愛大全』のツアーの大阪公演をすぐ映像(2023年4月リリースのBlu-ray/DVD『ドレスコーズの味園ユニバース』)で出そうって決められた感じとか?

そうですね。クオリティがとても高い。

-パーマネントなバンドじゃないけどすごくバンドですよね。

僕もそう思います。

-田代(祐也)さんというキーマンがいるし。

そうそうそう。僕の周りの歴戦のギタリスト、みんな田代君にびっくりしてます。"どっから見つけてきたん? こんな子"って。

-自分から来てくれたわけですが(笑)。

そうそう(笑)。

-募ってみるもんですね。

本当に。だからこれはギター・アルバムだという気がしますね。そこは田代君が大きい。僕は最近ギターを使わずにアルバムを作ることが多かったので。例えば『バイエル』(2021年リリースの7thアルバム)はピアノだったし、その前の『ジャズ』(2019年リリースの6thアルバム)は管楽器だったし、その前の『平凡』(2017年リリースの5thアルバム)はリズム・セクションだったし、すごく久々のギター・アルバムという感じがします。

-具体的に何曲かについてうかがいます。「襲撃」は、サウンド自体はニュー・ウェーヴな感じですけど、これまであんまりドレスコーズで感じたことがないJ-ROCK的なところもありますね。

そうそう。言葉を選ばずに言うとバンド・ブームの頃のようなサウンド。

-REBECCAとか。

まさにそうなんです。僕自身はあんまりその時代の日本のバンドをしっかり聴いたことがないんですけど、REBECCAだったりBARBEE BOYSだったり、80~90年代の日本映画の主題歌のような雰囲気にしたくて。「襲撃」もそうだし「最低なともだち」もそうなんですけど。

-相米慎二監督の映画のような。

そうそうそう! 相米監督の"台風クラブ"みたいな。僕が思春期の頃に観ていた野島伸司さんのドラマにもREBECCAの「フレンズ」が使われていたりして。それで、ああいうニュー・ウェーヴっぽいギターの音ってどうやったら出るんだろう? って田代君と1日かけてあれこれ試したんですけどどうしても出なくて、深夜にTHE NOVEMBERSのケンゴマツモト(Gt)ならわかるんじゃないかと思い立って連絡したらすぐに返事が返ってきて、"ジャズコとストラト"って。

-さすが(笑)。

そうか、田代君の使っているギターとギター・アンプが高級すぎたんだ! って(笑)。ジャズ・コーラスとフェンダーのストラトっていうのはいわゆる中学生、高校生がバンドを始めるときに揃える初心者セットですね。それがあの、いかにも日本的なロック・サウンドの秘訣でした。