Japanese
Tielle
雰囲気のあるエレクトロニックなナンバーもドラマチックなハード・チューンも、深みのあるヴォーカル表現で楽曲の解像度を上げるTielle。彼女の最新ミニ・アルバム『Light in the Dark』は、映画"夜明けまでバス停で"主題歌「CRY」やドラマ"科捜研の女 season21"主題歌「花火」など4曲のタイアップを収録しつつ、コンセプチュアルな一貫性が感じられるアーティスト Tielleを存分に実感できる仕上がり。今回はアーティストとしてのスタンスや、作品への向き合い方、各楽曲の創作の意図をじっくり訊いた。3月4日と間近に迫ったワンマン・ライヴをより楽しめるサブテキストとしても目を通してみてほしい。
-今回のミニ・アルバム『Light in the Dark』の収録曲はタイアップも多いですが、すごくトータリティがありますね。
ありがとうございます。
-Tielleさんの中に確かなヴィジョンがあったんですか?
そもそも2~3年、タイアップが決まる全然前からこのミニ・アルバムの構想も、ほとんど完成形に近いデモとかも全部あって、タイアップはあとからついた感じなんですね。なので、その統制が取れてるってのはそうなのかなって。たしかにタイアップのために書いた曲も2曲ぐらい入ってるんですけど、ひとつのチームで全曲作ったので、曲調は違えど、そこまで毛色がばらけることはなかったのかなと思います。
-たしかにYosh(Survive Said The Prophet)さんとDAIKIさんはそれまでもプロデュース・チーム"The Hideout Studios"としてTielleさんの楽曲をプロデュースされてましたが、彼ら自身も去年作品を出されたりして。よりプロデューサー・チームとしての存在感が出てきたんじゃないのかなと。
そうだと思います。彼(Yosh)自身も歌うことができるので、自分たちでDIYっていうか全部できる人たちがプロデュース業もしてるっていう感じなので。でも今回のアルバムはそのチームで作って、ここからまたどんどんいろんな人と曲を作っていこうかなという感じではあります。
-おふたりとの制作はどんな感じで進んでいくんですか?
基本的に私がこういう曲を作りたいとか、大きなヴィジョンみたいなのを持っていって、すぐに取り掛からず、結構会話を重ねたりとかして。で、このアルバムに関しては3日間ぐらい缶詰になって、スタジオにこもってほとんどの曲ができたので、本当に精神的にも来るものはあったし、途中でもうたまらなくなって、外に出るみたいなこともあったりしたんですけど、でもそれがあったからできたアルバムかなとも思います。
―じゃあこのミニ・アルバムのテーマの話はしっかりされたんですか?
"こういう曲を作りたい"って言って、私がプレゼンみたいなのをするんです。リファレンスの曲とか、こういうことを歌いたいとかっていうのを数曲パワーポイントで作って、そこに合わせていったり、あとはタイアップをいただいてそれに合わせて作ったりすることもあるんですけど。本当にこういう曲を作りたいって、目でも見せるし、リファレンスで音でも聴かせて広げていくっていう作業だった気がします。
-興味深いです。そのパワーポイントを見てみたい(笑)。ではアルバムの内容についてお聞きします。これまでもですけどアルバムの1曲目はインストが入っていて、今回はシリアスなイメージに引き込まれますよね。
それが狙いでした。『Light in the Dark』は、どっちかって言うと"Darkness"と言うよりは"Light"のほうにフォーカスした着地点でやりたいなぁと思って作り出したんですね。自分が今まで歌ってきた曲とか、リスナーさんの意見とか、人から言われることとかで感じたのが、どんな曲を歌っても結構エンジェリックだったり、声からホープが抜けないなっていうところが、ちょっと自分の中で壁に感じるところがあって。そこからちょっと脱却したいなぁと、本当にダークな深い部分、私の中にある深い部分をこの作品の中では最初に見せたいなって思ったので、今回はベートーヴェンみたいに弾いてほしいっていうふうにDAIKIくんに伝えました。で、絶望から始まって最後はやはり光で着地するっていう方向性にしたいなっていうことで、このように始めてるんです。
-Tielleさんの低音っていうかアルト・ヴォイスで聴かせる曲が多いですね。
そこが特徴なんじゃないかっていうのに気づいたので。そこまで低いわけじゃないんですけど、結構低い声に特徴があるなというか、私の武器なのかもしれないなというふうに思ったのと、レンジの広さっていうところを自分のプロフィールにも書いているからには、そこは常に上も下も挑戦し続けなきゃなっていうのは1個自分の中にあるので、今回はダークのほうで攻めてみました。
-1曲目の「Noir.」のピアノがそのまま「In the Dark」に繋がっていく感じですよね。
そうですね、はい。
-しかもこの歌詞の"In light of the dark(暗闇の中にいる光)"っていうのは自分、この曲の主人公なのかな? と。アルバムのテーマでもあるのかなと思いました。
そうですね。歌詞で"誰か僕を見てよ"って言ってるんですけど、それはその深い深い海の底に自分から行きたがってるっていう描写でもあって。そこが落ち着くと自分でわかってる。落ち込みたい人って自分から落ち込みに行くような感覚もあるなって思ったので、そういう感じで人間のどうしようもないところをこの曲で表現しています。本当の本当のどん底に1回ゆっくりゆっくり下がっていくけど、でも下向いて下がってるんじゃなくて、上向いて下がってる感覚っていうか。ずっとホープを願って、"ここまで光が届いてくれ"っていうような気持ちで歌ってますね。
-状況を受け入れる静かな覚悟も感じます。
そうなのかもしれないですね。基本的に私自身がいい意味でも悪い意味でも流れに身を任せる人なんで。すべての出来事は自分が招いてると思って生きてるので、そこに抗うこともしながら、ただ受け入れていることが結構多いかもしれないです。それを楽しんでいるところもあるし。だから強いことを歌詞で歌ってたりメロディアスに歌ったとしても、どことなくナチュラルな感じっていうか。そんな感じがしますね。
-そうなんですよ。特に今みたいな時代だと、"前を向こう"とか"落ち込んでる自分を許そう"みたいな感じになりがちですけど、むしろそうじゃないTielleさんの音楽が落ち着くんですよね。
えぇ~、嬉しいですね。
-どうしないといけないみたいな気持ちになるんじゃなくて、一緒に沈めるっていうか。
そうなれたらいいなって思って作ったところがあります。自己啓発みたいな音楽ってあんまり好きじゃなくて。基本的に私自身が"私を見て"というタイプのアーティストではないので。ただ私を通して、客観的なものを私が楽器となって出してるだけという感じでやってるから、たぶんそこに主体っていうのがそんなにないんです。でも自己啓発じゃないけど音楽で感動するって実際にあるし、それは悲しみの部分でも、感動するし感情が動くじゃないですか。それを体験して生きて、喜怒哀楽全部で動くなと思ったから、"頑張れ頑張れ"って言うんじゃなくて、どん底に落ち込みたいときに聴く曲でありたいなって。でも最後にちょっと、そっと手を差し伸べられたらっていう薄い希望みたいなのをここには込めているので、そこが落ち着くポイントであるのかなとは思います。
-そう思います。歌詞の世界も強い言葉とかがあるんですけど、どう受け止めるかの幅が広く取られている感じがします。
そうですね。たまに私が意図した意味とは全然違う意味で受け取られることもあるんですけど、でもそれはそれで音楽のあり方としていいんじゃないかなと思うし。だからいろんな人に"あ、これ私の曲だ"って思ってほしいです。
-その時々にしっくりくる曲がある気がするんです。
それが最高ですね(笑)。
-そして3曲目の「CRY」はこれまでのTielleさんの曲にもありましたけど、エレクトロでアトモスフェリックなサウンドで。はっきり掴めない感じの音像の中で抑制の効いたヴォーカルっていうのが特徴的ですよね。Tielleさんらしいというか。
そう、なんでしょうね(笑)。自分ではまったく気づかなくて。
-切実な内容の曲でもあって。これは映画"夜明けまでバス停で"の主題歌のお話以前にあった曲なんですか?
これはすでにあった曲ですね。これができたときは、本当に私も含め制作陣のみんなが最高のものができた、メジャーに挑戦できる曲ができたなって思ったし、私が本当に言いたかったことがここで表現できています。WARNER MUSIC JAPANに入るときにもうこの曲は聴いていただいてました。私はいつもタイアップは曲に服を着せるような感覚なんですけど、"この曲にいい服を着させてください"っていうふうにずっと言ってて。本当にぴったりなお話をいただいたのですごく嬉しいですし、この曲が本当に誇らしいなって思いますね。
-いわゆるJ-POPの世界で戦うとしたらある意味挑戦的な曲ではあるけど、世界の潮流で言うとすごくポピュラーでもあるっていうか。
つい最近まで自分の曲が歌いにくいってことに気づかなくて。たしかにカラオケでは歌いにくいな、歌いやすい曲ではないなっていうことに気づいて、だからメジャーの売れ曲っていうか、みんなの耳に馴染む、耳馴染みのいい曲ではないのかもしれないなぁとは思うんですけど、やっぱり曲を作っているときはちょっと面白いことやりたいなぁっていうのが常にあるので、全体的にそんな感じにはなってますね。
-これがTielleさんにとってやりたいことができた曲なら、これからが楽しみになります。そして「by your side」でちょっと光を感じます。でもこの曲も不思議だったのが、光を感じると同時にちょっとなんか危うくて。大人になることってどういうことなのかな? みたいなニュアンスもあるのかなと思ったんですけど。
まさしくそうで。長年連れ添った夫婦に聴いてほしいなって思う曲なんですけど、意図してそういうふうに最初から作ったわけではなくて。大人が長すぎるっていうことがすごく単純に"しんどいなぁ"っていう、子供で居続けたかったけど、いつの間にこんなふうになってしまったんだ? いつの間にこんな大人になってしまったんだろう? みたいなことを思わない人はいないんじゃないかっていうところから作り出しました。で、懐かしい気持ちというか、セピアな色合いのエモーショナルな感じの曲を作りたいなと思ってたので、最終的にすごく究極の愛の歌になったんじゃないかなと、できあがってから思って。長年連れ添った夫婦って、最初のときのドキドキとか、昔は許せてた癖とかあると思うんです。昔はかわいいくしゃみだなと思ったけど、今は鬱陶しいなと思うとか。そういうのって時の流れでどうしようもないじゃないですか。でも嫌な部分ばっかり見るんじゃなくて、あの頃と今と変わらないであり続けるもの、変わらずにそばにい続けてくれる友達、パートナーとかそういうものに究極の深い愛があるんじゃないかな? って思ったときに、"なんだ、別に今もそんなに悪くないじゃん"と着地してできた曲なんですよ。ずっと過去形で"I was ok"って歌ってて、最終的には"I am ok"に落ち着いているので、ちゃんときれいにピリオドをつけれたかなって曲ではあります。
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