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INTERVIEW

Japanese

S.O.H.B

 

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Member:Natsumi Nishii

Interviewer:吉羽 さおり

名古屋在住、Natsumi Nishiiによるクリエイティヴ・ユニット、S.O.H.B(シーズンズ・オブ・ハー・ベッドルーム)の最新EP『美しいあなた』の描く世界は、美しく温かく、そしてさみしさや"ひとり"の当て所なさをそっと包んでくれる心地よさがある。R&Bやポップ・ミュージックを下地に、今っぽく尖ったサウンドにも目配せをしたシンプルなトラックに乗せたヴォーカルは、都会の賛美歌のように降り注ぐ。わずか数分間でも、共に過ごす時間を豊かで普遍的なものにする、そんな音楽だ。昨年S.O.H.Bとしての活動をスタートし、初のアルバム『2021』を発表し、いくつかのシングルのあと、今作『美しいあなた』へと連なるが、まだまだ謎多きS.O.H.B。今作をひもときながら、その音楽の成り立ちを訊いた。


必要な孤独を必要なときに感じられる曲や、会いたい人を思い出す曲を作りたい


-最新作『美しいあなた』は、都会の孤独と大切な人への想いを綴った曲が中心となったコンセプト作品ということですが、作品の成り立ちはどういったものですか。

もともと、いろいろな場所へ旅に出ることが好きなのですが、今回はその中でも私が好きな日本の場所をメインに1曲ずつストーリーを組み立てていきました。初めは都市の名前がそのまま曲名になっていたんですが、リリースにあたり曲に合ったタイトルを付けたらこういう形になって。その土地で、見た景色や、感じたことを形にしていったら、聴き方によってはラヴ・ソングに聞こえるようになったというほうが強いと思います。

-それはご自分で出向いた4つの都市だったんですね。

そうですね。当時自分がよく行っていた4つの都市で。今自分が住んでいるのが名古屋なので、東京と名古屋と沖縄と北海道です。

-曲の内容からすると......「オレンジ」が東京、「夜明け前」が名古屋、「Warm Night」が沖縄で、「きらめき」が北海道でしょうか。前回のアルバム『2021』(2021年リリース)は、1年間の四季の移ろいや部屋からの景色、感じることを1曲ずつ曲にしていましたが、何か題材があって曲を書くことが多いですか。

短編の映画みたいなものがいつも頭の中にあるので、それを形にしようとすると音楽になるというか。自分が感じている質感を映像なしの映画にしているようなイメージで曲を作っています。

-自分のいろんな感覚を使って音楽にしている人なんだなというのは、今回の作品で一番に感じるところで。例えば「オレンジ」では、匂いや温度、何かに触れた感触であるとかそこに流れている風の感じであるとか、そういうものが音や言葉になっていて、聴いていてリアルに光景が浮かび上がってくる感覚があるんです。Nishiiさんの曲作りとしては、最初からそういうアプローチだったんですか。

なるべく抽象的な表現で回りくどく言うのは最初からでした(笑)。

-回りくどくはないと思いますよ(笑)。

核心に触れないように、外堀を埋めていくような言い回しは昔からずっとですね。普段の生活ではしないですけど、曲を書くときはそういうふうにしています。

-それは歌として自分が求めているものがあるからですかね。

ひとつひとつの音楽をありふれたものにしたくないと考えると、どうしても直接的な表現だと、きれいな言葉が埋もれちゃう気がして。なので、わざと日本人だったら理解できる回りくどさを使うようにしていますね。

-「きらめき」に"眼に映るすべてのものを言葉にしてみたいと思う"というフレーズがあって。まさにそういうことを丁寧にやろうとしているんだなというのは、今回のEPや前回のアルバムから伝わりました。そんな音楽にしたいということで、ほかにない表現を探しているのもあるんですか。

例えば、"汗"を気持ち悪く感じるか気持ち良く感じるかかわいく感じるのか、対象によって違ってくると思うんですけど、私がわざと直接的に"汗"って曲を書いたときに、"汗"を使わずにどこまで言えるかというのをやるとか。曲調を"汗"っぽい曲にするのかとか、そこらへんは、今後もっと遊んでいきたいなとは思います。

-言葉と同時に音も密接に関わってきますよね。どういう音、曲調、ビートで表現するかがあると思うんですが、曲を書くときは言葉が先にあるのか、音として鳴っているものがあるのか、どういう感じなんでしょう。

だいたい同時にできます。ただ、作り込むとしたら言葉のほうを作り込んでいる気がします。例えば北海道の曲「きらめき」では、私北海道の知床半島で、夜道に迷って雪の中ひとりきりだったときものすごく孤独を感じて。でも昼間はキラキラと雪が舞っているのがめちゃくちゃきれいなんですよね。森の中に光が入ったときに、白じゃなくなるというか、ふわっとした色になる。そういう景色を頭の中で思い返しながら曲を当てたときに、その曲が合えばそれ以上はいじらないし、言葉が足りなければつけ足していく感じで曲を作っています。

-「きらめき」の背景にそういう出来事があったとはと、そちらのほうに驚きました(笑)。

そうですね(笑)。片道40分かけて飲みに行こうとして遭難しかけました。

-その経験からこの美しい曲が生まれるとはですね。孤独感が、曲として美しく昇華されていくというか。「きらめき」でのサビのコーラスや雰囲気を聴いていると、孤独だけれど、その孤独がたくさん集まっている感じがあって。それがとてもゴスペル的だなって思った曲でした。孤独がたくさんあるけれど、そこにあるのは悲しさだけではない、温かさを感じる曲だなと。

ゴスペルっていうのは目指していました。この「きらめき」という曲自体が、このアルバムの中で一番私の核心に近い曲なんですよね。私は賛美歌が書きたいとずっと言っていて。生きるために歌わなきゃいけなかった人たちが、歌うために作った曲なんじゃないかなと思っているんです。必要な孤独を必要なときに感じられるような曲だったり、会いたい人を思い出す曲であったり、そういう孤独に寄り添える曲作りや音作りをしたいなと常々思っているので。「きらめき」に関しては、生々しいというところで、なるべく今の電子っぽさを感じさせないアレンジを目指しました。

-ゴスペルやソウル・ミュージックというものに惹かれるなと思った瞬間、こういうことをやりたいなと思ったのはいつ頃だったんですか。

だいぶ前ですね、子供の頃から歌うのが好きだったので。映画"天使にラブ・ソングを"がきっかけですね(笑)。あの映画の登場人物たちは何かを乗り越えるために歌を武器に使っていくじゃないですか。映画を観たのはたぶん小学生くらいの頃だったと思うんですけど、当時は音楽の授業もそうですが、別に何かのために歌うということはしてこなかったので、あそこまで自分の身体を使ってアピールできる方法があるのは、うらやましいなと思いました。

-そこに熱心に向かえることってあまりないシチュエーションですよね。Nishiiさんの中では、"歌"、"歌うこと"が音楽をやるうえでは大きかったんですね。

そうですね。言葉を歌で伝えるのは、ずっと大事にしたかったことだと思います。ずっとこういう形で届けたいものがたくさんあったんです。

-歌にフォーカスを当てた曲はもちろん大きくありますが、「Warm Night」はEDMっぽい雰囲気で、歌詞も英語詞で音的な感覚がありますね。

なるべく耳触りがいい、ビーチで聞ける曲をと思って書いた曲でしたね。

-S.O.H.B.では歌を中心にしながらもサウンド、アレンジメントも大きなウエイトを占めています。頭に描くシーン、感覚、感触、温度感を描いていくなかでこれは形にするのが大変だったなというのはありますか。

一番大変だったのは「きらめき」ですね。

-それは先ほどの、孤独の中で感じた雪景色や、自分が思う賛美歌的なものをどうマッチングさせるかで?

そうなんです。その人その人の中の心地のいい孤独感をどう景色とマッチングさせようかっていう。"怖くないきれいさ"というところでしたね。すごくキラキラしてきれいだったんですけど、それを音にしようとするとどうしてもおどろおどろしくなっちゃって。なので、本当はまだちょっといじりたいくらい(笑)。

-そこは欲が出ますよね。

聴けば聴くほど、ここはこうしたかったというのが出てきますね。最後の詰めの作業だけで、月の半分くらい徹夜をしていたんですけど、正解がわからなくなっちゃってまとまらなくて(笑)。リリース時の私の正解の音源があれなので、またリアレンジはひっそりとやりたいなと思っています。あの曲が一番手強かったですね。孤独が難しい。