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INTERVIEW

Japanese

Void_Chords

2022年02月号掲載

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Member:高橋 諒

Interviewer:山口 智男

アニメ作品のテーマ・ソングおよびサントラやJ-POPナンバーを多数手掛けるクリエイター、高橋 諒によるアーティスト・プロジェクト、Void_ChordsがTVアニメ"トライブナイン"のエンディング・テーマとして書き下ろした「Infocus」をニュー・シングルとしてリリース。高橋がメール・インタビューに応え、都会的でスタイリッシュな楽曲になった「Infocus」とカップリングの「VALIDATION」の、制作過程と聴きどころについて語ってくれた。


エレクトロニックな方向に振れつつ、 階層的に他ジャンルを乗せていく構造にしようというのがまずあった


『Infocus』について質問させていただく前にVoid_Chordsおよび高橋さんにとって、昨年2021年がどんな1年だったかのか、まず教えていただけますでしょうか?

ありがたいことに作曲家としては様々な作品に参加させていただいて、引き続きコロナ禍でスケジュールや制作行程に難しさはありつつも、結果的に今までのキャリアで一番曲を作った1年になりました。350曲以上書いた計算でまさに駆け抜けた~といった感覚でした。Void_Chordsとしては今年発表予定の作品をたくさん書かせていただきつつ、配信のみになってしまったのは残念ですが、アコースティック編成でのライヴや新曲のライヴ先行お披露目の機会をいただけて、充実した1年だったと思います。

-そんな2021年を経て、Void_Chordsとしては1年6ヶ月ぶりとなるシングル『Infocus』がリリースされますが、TVアニメ"トライブナイン"のエンディング・テーマである表題曲「Infocus」は、どんなところから取り組んでいったのでしょうか?

主題歌としてヴィジュアル・イメージとシナリオから、どんなものが合うか探るところからスタートしました。後述しますが、次に表現したいジャンル感としてぼんやり考えていたことととても親和性のある作品で、イメージの擦り合わせは早かったと思います。いつものスタイルですが、レーベル・プロデューサー、作詞とヴォーカル・ディレクターを務めていただいているKonnie Aokiさんと、詞と曲のイメージについて、同時にディスカッションして決定していきました。

-"トライブナイン"というTVアニメ作品に対する高橋さんの印象は? 面白さはどんなところだと感じていらっしゃいますか?

サイバーパンクな世界観も群像劇も架空のエクストリーム・スポーツも、自分の好きな要素を集めたような作品で、今後の展開もとても楽しみです。1話の完成映像を拝見したところですが、小高和剛さん原案作品に通底していると勝手に思っているのですが、すごい情報量なのに視覚体験として身体的な快楽があるというか、原始的な高揚感が煽られるような感覚があります。

-そういう作品のエンディング・テーマとして、どんな楽曲が相応しいと考えたのでしょうか?

まずはエンディング・テーマとして大事にしていることなのですが、少し物語を俯瞰したメタ的視点だったり、ある種の読後感、言わば作品の没入感を少しリセットして現実に帰ってくる要素だったりを前提としています。そのうえで作品の持つサイバー的だったり極彩色的な未来感のある外殻に、闘志や野性などのプリミティヴな感情要素、個人的な感情の熱を内包したものにしようと。この内外構造は次作で個人的にも表現したいヴィジョンとして考えていまして、作品にもカッチリとハマったのではないかと思います。

-楽曲を制作にするにあたって、アニメ・サイドからのリクエストはありましたか?

作品のアウトラインや、エンディング映像の方向性をうかがいつつも、具体的なところは任せていただいたので、プロデューサー、作詞家のKonnieさんとディスカッションの中でアイディアを擦り合わせました。

-作詞はタッグ・チームと言えるKonnie Aokiさんですが、どんなディレクションを?

前述のエンディング・テーマとしての視点を踏まえ、群像劇的側面と、より各個人の心の繊細な部分にスポットを当て、"内なる強さ"への志向と決意、前進していく姿勢を描くことで、オープニングへの対比とエンディング的メタ転回を図ろうとお話ししました。

-「Infocus」は都会的でスタイリッシュなサウンドの中で巧みに重ねられた楽器の音色のレイヤー、およびラテン、R&B、ファンク、フュージョン、ジャズといった様々なジャンルのレイヤーが聴きどころだと思うのですが、そういう楽曲になったのは、どんな理由からなのでしょうか?

前述の制御された外殻と内包された野性を表現するのに、基点のスタイルとしてはもっとエレクトロニックな方向に振れつつ、そこに階層的に他ジャンルを乗せていく構造にしようというのがまずありました。作品のアナロジーとして、人工的でコントロールされた、精密で温度感のない入れ物の上に、肉体性を感じるアナログな質感というか、温度の感じるものをビルトインしていく構造で、様々なスタイルが上に乗っかっている形です。今作は器としての佇まいが静謐なぶんレイヤー感をよりハッキリと感じていただけるかもしれません。

-"トライブナイン"の世界観を表現しつつ、エンディング・テーマとしての役割を果たす一方で、Void_Chordsとしての(いい意味で)エゴは、どんなふうに表現しようと考えましたか? そして、実際、どんなふうに表現しましたか?

その基点になるエレクトロニックな外殻構造はVoid_Chordsとしても新しい要素でもあり、上部構造との親和性が損なわれない程度に、柔軟に振れられるだけ振れてみようと思いました。結果今までの作品で弾き倒していたベースはシンセによる比較的シンプルなシークエンスになったり、オールドスクールなブレイクビーツを大げさに使ったり、普段とは違うアプローチをいろいろ詰め込めたかなと思います。

Skream!の前回のインタビュー(※2020年7月号掲載)で、楽曲制作のルールを挙げていらっしゃいましたが、そのルールに沿って、「Infocus」の聴きどころを解説していただけないでしょうか? まずは"リズミカルな要素を大切にすること"という意味では、アレンジおよび演奏で意識/重視したことは、どんなことでしたか? また"リズミカルな要素"という意味では、リスナーはどんなところに耳を傾けたらいいでしょうか?

マシン・ドラムのサウンドを使いつつ、四つ打ちのフィールから、より肉体的なファンクのマナーに添ったシンコペーションが徐々に展開されつつ、サビ後半のオルタナティヴ・ロック的リズム・アプローチは、細かいシンコペーションの共通性を回転軸にしてジャンプしていたり、1コーラスの中での様々な共通した要素による滑らかなモーフィングを意識しています。要素は多くとも没入感を損なわない音楽を目指しましたので、そのあたりを楽しんでいただきたいです。

-次に"ルーツが見えること"という意味では、アレンジおよび演奏で意識/重視したことは、どんなことでしたか? リスナーはどんなところに耳を傾けたらいいでしょうか?

ビートのネタだったりFM感のあるプラッキング(※指で弦を引っ張って音を出すこと)だったり、個々の素材の感触としては'90s~'00sのわりと懐かしい印象のものを使っています。10年代後半からのリヴァイヴァルも経て、また新しい佇まいをもたらせられるのではないかと思いますので、このあたりはVoid_Chordsとしても今後も探っていきたいところではあります。

-そして、"ひとつ意外性を入れること"という意味では、どんなことを?

前述のサビ後半でのロック・フィールまで取り込めたことですね。マシン・ドラムとシンコペーションの調和性は非常に難しい側面があって、フィールが上滑りしてしまって没入感を削ぐので試行錯誤が必要だったのですが、トラップ的な手法からのアプローチで光明が見えて四つ打ちから横断的に構成できたのは収穫でした。

-そのインタビューで、ルールの最後に"ベースを最後に入れること"を"(笑)"つきで加えていましたが、なぜ、ご自身のメイン楽器であるベースを最後に入れるのでしょうか?

ベースの役割をちょっと逸脱して、言わばソロ楽器として捉えて、構造的な可能性の拡張を図りやすくするために最後に入れるようにしています。より本来的な役割に戻れるところは戻って、外れるところは外れて、と上から俯瞰しやすい感覚があり、Void_Chordsの楽曲では積極的に採用しています。本作では例外的にシンセ・ベースで、オーソドックスなアプローチでまとめています。