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INTERVIEW

Japanese

岡崎体育

2021年10月号掲載

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原点であるネタ曲に再び真っ向から勝負を挑む、岡崎体育が帰ってきた。2019年に念願だったさいたまスーパーアリーナでのワンマン公演を成功させ、音楽家としての歩みにひと区切りをつけて制作に臨んだ4枚目のアルバム『FIGHT CLUB』は、本人いわく"原点回帰"の1枚だ。フェスのライヴ・レポートの文章をそのまま楽曲にした「Quick Report」などのネタ曲で抜群のオリジナリティを発揮すると同時に、トラックメイカーとしての探求心を感じるアルバム曲からは、32歳になった岡崎体育が綴る"年を重ねてゆく人生"への希望を込めた歌詞に胸が熱くなる。5年前にセンセーショナルなかたちで音楽シーンに登場し、今年デビュー5年を迎えた岡崎は何を思い、『FIGHT CLUB』を完成させたのか。話を訊いた。

-"FIGHT CLUB"っていうタイトルに引きずられてるかもしれないけど、今回のアルバムって、"岡崎体育"が"過去の岡崎体育"と戦っている作品なのかなと思ったんですよ。

なるほど。デビューした曲が「MUSIC VIDEO」(2016年リリースのメジャー・デビュー・アルバム『BASIN TECHNO』収録曲)っていうネタ曲だったので。そのイメージの払拭が難しかったんですよね。未だに"あるあるソングを作ってください"みたいなオファーもありますし。それをずっと覚えててくれるのはすごくありがたいんですけど、それに固執せず、いろいろな曲ができたらなとは思ってて。そういう意味で、前回のアルバム(2019年リリースの3rdアルバム『SAITAMA』)はそのイメージを払拭することに苦労したというか。ネタ曲をそこまで入れなかったんです。でも、今回は1stアルバムの頃に立ち返って、原点回帰と言いますか、岡崎体育が新しいスタートをして、32歳になった今でも世間で話題にしてもらえるのかっていうテーマのもとで作ったアルバムなんですよね。

-要するに、前作とは戦ってる方向が違うんですよね。

前作に関しては、世間とのイメージとの戦いだったんですけど、今回はそのイメージを自分で受け入れてというか。もう1回ネタ曲で戦っていこうっていう意味の"FIGHT CLUB"ではあったと思います。それと、後づけにはなるんですけど、「おっさん」っていう曲とか、今回は自分を鼓舞する曲が多いなって自分で思ってるんです。"FIGHT CLUB"っていう言葉尻だけだと、アグレッシヴでオフェンシヴなイメージを持たれがちですが、人を応援するときに、日本では"ファイト!"って言ったりもしますよね。自分の応援のためでもあり、悩んでる人に対して何か背中を押せるような、"ファイト!"って言えるようなアルバムになればっていう想いもこもってるんじゃないかなって、今は思いますね。

-原点回帰のアルバムになったのは、2019年に念願だったさいたまスーパーアリーナでのワンマン公演でひとつ区切りがついたうえで、自然な流れだったんですか?

さいたまスーパーアリーナを終えて、もともと引退する予定だったんですよね。それもレーベルに伝えてはいたんですけど。自分の中で考え方が変わって、岡崎体育として引き続き表舞台で立ってみることにしたんです。というなかで、ここからを岡崎体育の第2章にしようっていうのは、レーベルにも言われてたんです。でももう1回、第1章を繰り返しても、それはそれでいいんじゃないかって思ったんですよね。この路線で岡崎体育の強みを世間に出せれば、それが自ずと第2章になるだろうし。

-大きな目標を達成したあと、制作の意欲というか、モチベーション的なところは切らさずに向き合うことはできたんですか?

1回休もうとは考えていました。さいたまスーパーアリーナのライヴを終えて、1回落ち着いてみようっていう時期があって。2020年からガッツリやっていくって決めて、2月に大阪のエディオンアリーナでワンマンをやったんです。でも4月からコロナになって、なかなか思うような活動ができなかった。ポケモンの映画のテーマ・ソング集(『「劇場版ポケットモンスター ココ」テーマソング集』)だったりとか、自分の『OT WORKS』っていうコンセプト・アルバムの第2弾を出したりとか、ライヴの制限があるなかで、音楽家として楽曲制作に重きを置いていったんです。

-当初、たまアリ公演を終えたあとにやろうと思っていたかたちになっていったと。

本当に奇しくも、ではあるんですけどね。小学校のときの卒業アルバムで、"作曲家になって世界中の人に曲を聴いてもらう"っていうのを文集に書いたんです。実際にポケモンの映画って全世界で見られるものですし、2020年の1年間で自分の子どもの頃の夢を叶えるかたちにもなったんです。そのときに例年に比べて楽曲制作をたくさんやったっていう弾みが、今回のアルバムにも反映されてるんだなと思います。

-結局、そういう日々を積み重ねてるから、第1章を繰り返しても、第1章と同じにはならないわけだし。それがこのアルバムのかっこいいところなんですよ。

ありがとうございます。ネタ曲が岡崎体育の強みではあるけど、32歳になった今のやり方でアウトプットしたら、どんな感じになるかなっていうことですよね。そしたら同じネタ曲ではあるんですけど、また全然違う角度で作れたので。

-それが「Quick Report」ですよね。

これをライターの方に聴かれるとちょっと......。

-フェスのクイック・レポートをネタにしたものですよね。私も、体育さんのクイック・レポートを書いたことがあるので。

えー! ありがとうございます。

-ニヤニヤしながら聴いてたんですけど(笑)。

夏フェスにクイック・レポートは必須なもので、実際にフェスで遊びにきたお客さんも読んだことがある人がたくさんいると思うんですよ。それを曲にしたら盛り上がるんじゃないかっていう発想ですね。もともと携帯のメモ帳にテーマの残骸みたいなのがあって。何年か前にTwitterで、そういう没曲の中から聴いてみたい曲はありますか? っていうアンケートをとったんです。その中に、このクイック・レポートを題材にした曲とか、インターネット上の喧嘩の曲があって。

-「Fight on the Web」ですね。

そうです。この2曲に票がたくさん入ったので、かたちにしたら楽しんで聴いてくれる人がいるかもしれないっていうところですね。

-歌詞はレポートの文章そのままですけど、何か参考にしながら書いたんですか?

基本的には自分のライヴ・レポートですね。その中に"観客のボルテージは一気に最高潮に"が複数出てきたんですよ。

-曲の中で何回も繰り返してますね。

これって来てないお客さんにとっても、その場の雰囲気とか絵を想像しやすい言葉だと思うんですよね。必ずしもその言葉を揶揄してるわけでもないし、クイック・レポートにとってとても大切な表現だと思うんですよ。

-本当にそう思ってます(笑)? ライター的には"同じことばっかり書いてる"っていう皮肉なのかなとも思いましたけど。

いやいやいや! 本当ですよ。揶揄するつもりは全然なくて。わかりやすいことが一番だし。実際にライヴではオケを流しながら、オペレッタ調にやる曲なんですけど。いわゆるクイック・レポートの中での一番使われやすい言葉のときに、お客さんがパッと盛り上がるんですよ。「Quick Report」の歌詞のとおりにやってくれるというか。"タオルを両手で掲げはじめた"っていうシーンで、みんながタオルを掲げてくれたり。フェスの盛り上がり方の教科書的な曲になってるんです。

-レポートの文章とオケの展開も連動しているから、1曲の中にライヴで盛り上がる要素がたくさん盛り込まれますしね。

日本でこれを力強くできるのは自分だけかもしれないなって思いますね。

-たしかに。

そういうのを考えると、こういう曲を書くことによって、自分で自分を唯一無二だってポジティヴに言い聞かせることもできるんです。ネタ曲って、今まではアルバムに収録しないことも多くて、ライヴでしかやらない曲もたくさんあるんです。「Quick Report」と「Fight on the Web」もそうなると思ってたんですけど。楽曲のまとまり具合も良かったし、耳だけで聴いても楽しめる曲になったので、アルバムに入れることにしたんです。

-「Fight on the Web」もネタ曲と呼んでいいのかな。インターネット上で巻き起こっている喧嘩がテーマで。とにかく掴みになる曲です。

過激なテーマを取り扱ってますからね。ちょっと嫌厭したくなる文化ではあるんですけど。自分でも感じてる部分があったんですよ。インターネット上での言葉の暴力というか、それが昨今すごい顕著に出てきてるなと思ったので。警鐘を鳴らすわけじゃないですけど、あえてこの曲のMVはダサく作ったんです。(ネット上で喧嘩をすることが)恥ずかしいものだなと思ってもらえるようなものにしたかったので。この曲を聴いて、何か思うようなことがあれば、それは作った甲斐があったなと思います。

-ただ"面白いな"で終わるだけじゃなくて、"ちょっとみんなおかしくない?"って問い掛けるものにしたかった。

その気持ちは多少なりありましたね。MVで公開したときも、"あ、岡崎体育、また新しい曲を出してきた、面白い"って書いてくれた人もたくさんいたし、その"面白い"が第一印象でいいんですけど、"やっぱりインターネットの喧嘩ってダサいな"って少しでも思ってもらえたら、作った価値があるなって。