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INTERVIEW

Japanese

大原櫻子

 

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自分の声の幅、可能性をもっともっと広げていきたい


-大原さんのイメージというと元気な、張りのある力強い歌声というのもあったんですが、こういう曲を自分で歌ってみてどうでしたか。

普段は、「STARTLINE」のようなパーンと地声で張る歌が多いんですけど、こういう曲もすごく好きでしたし、歌っていて楽しかったです。いつもとちがう自分になっている感じというか。自分よりも少し年齢が上の女性が、暗闇でろうそくだけ灯しながら歌っているような──そんな絵を浮かべながら歌っていました(笑)。

−(笑)最後のサビ前にくるウィスパー・ヴォイスもハマってました。「Long Distance」のような曲もそうですが、こういうメロディや曲調は、大原さん自身挑戦的な意味合いもあるんですか。

そうですね。「Long Distance」もアレンジしてくださっている福田貴史さんもそうですし、作曲しているClaire Rodrigues Leeの方もそうですが、洋楽っぽいテイストに仕上げてくださったので。そういう今の時代も感じながらの制作でした。前作『Passion』(2020年2月リリース)は、海外でやられている方とコラボをした曲が多くて、今回もちょこちょことそういう曲が入っているんですけど。でもパワフルな曲というよりはもっと親近感がある、日常に寄り添える曲というのは絶対に入れようという話はしていたんです。

-シンガーとしていろんなトライをしたいという時期というのも重なっているんですか。

なんで海外の方とコラボをし始めたのかというと、音楽番組やライヴで英語のカバーをやらせていただくようになってきて。英語の曲って、やっぱり日本人とは発声がちがうので、もしカバーするなら今後、そういうところでは挑戦していきたいですし、常に自分の声の幅、可能性をもっともっと広げていきたいというのはありますね。

-お芝居やミュージカルをするなかでは、それこそいろんな可能性や声の幅が引き出されそうですね。それをこういうポップスにどう落とし込むのかというのは、面白い作業になりそうです。

そうですね。めちゃめちゃ面白くて、お芝居やミュージカルでは、役を掘り下げていくなかで自分でも思っていない声と出会うので。そこで役として歌うときに、歌の新しい引き出しを見つけたなという瞬間はありますね。

-そうなると、もっとこういう曲ああいう曲を歌ってみたいという欲張りな感じも出てくる。

出てきますね(笑)。今回は、「同級生」という曲でアレンジとプロデュースをしている徳澤青弦さんと出会って。青弦さんは、歌い方であるとか、歌う声に関してというより、ニュアンスを大事にされる方で。"もっと近くにいる感じで"とか、"もっと声の丸みを大事に歌って"みたいなすごく難しいオーダーがあったんですけど。ハードルが高くて逆に面白かったんです(笑)。

-この「同級生」はまさに歌がすごく大事というか、鍵盤やストリングスによる音はとてもミニマムな感じがあって、歌で物語やその物語の背景や世界観を聴かせる曲で。曲の情景なり心理を描いていないと歌えない曲という感じがあります。

最初にアレンジを聴いたときに思ったのは、オルガンの感じもすごく懐かしさがあって、タイトルにある"同級生"というある意味美しい存在に本当にぴったりな音色で。ただ、リズムを聴くときれいなだけじゃないというか、少しゆがんだ感じがあって。だからこそ大好きな曲だったんです。メロディだけを聴いていてもほろっとくるような、心を動かされるメロディ・ラインで。バラードの中でもこれまでの壮大さよりは、すごく近くに感じるものになっているんです。前半の静けさから後半のダイナミックになっていく物語性もあって、すごく好きだなって思います。

-こういうのもお芝居やミュージカルをやっているからこその表現では。

そういうのはなかなか自分では気づかないんです。歌えているのかもわからないですけど(笑)。

-でもこういう曲に出会うタイミングも、経験を積んだ今だからというのはありそうですね。また「だってこのままじゃ」や「透ケルトン」では緑黄色社会の長屋晴子(Vo/Gt)さんが手掛けています。長屋さんとはどういう経緯でしたか。

長屋さんは最初に、昨年配信限定でリリースした「透ケルトン」でご一緒させていただいたんです。緑黄色社会さんは今トップを走るバンドですけど、楽曲提供してくださるという話で。もともと友達だったとかではなかったんですけど、同い年だということがわかり、そこから何度かお話をさせてもらうなかで、"また楽曲作ってほしいよ"っていう話もしていたんです。"今度一緒にやるならどういう曲を歌いたい?"というので、"ライヴで、歌楽しい! って思えるものを歌いたいな"っていう話をしていたら、「だってこのままじゃ」という曲がきて。まさに、フェスとかで歌いたくなるような疾走感のある曲だったので嬉しかったですね。

-緑黄色社会の曲もまさに歌が好きな人が作っているんだろうなという曲や、メロディ・ラインですもんね。

そうですね。晴ちゃん(長屋)に、"晴ちゃんの紡ぐ言葉が本当に好きだよ"って言ったときに、"いや、全然自信がない"って彼女が言っていて。どこが!? って思ってびっくりしちゃったんですけど(笑)。でも晴ちゃんも、"私は単純に歌うことが好きなんだ"って言ってて、それはすごくわかるって思いました。単純なことだけど、それを話し合えるアーティストさんって意外といなくて。歌うことが好きっていうすごく純粋な部分って、当たり前だからこそあまり人には言わないとは思うんですけど、晴ちゃんとはそういう話になったんですよね。

-「だってこのままじゃ」という曲がきたときは率直にどう感じましたか。

「透ケルトン」とは全然ちがう主人公だなって思いました。「透ケルトン」は女性の強みみたいな、軸がブレない、私がこうでいたいんだっていう姿が明確にある曲だったんですけど。「だってこのままじゃ」に出てくるのは、うじうじと考えてしまって何も言えてないかわいい男の子のストーリーだったので。真逆できたなって思って。晴ちゃんは、いろんな引き出しを持ってるんだなって思いました。晴ちゃんって一見、凛としていて、「透ケルトン」の主人公のような女性の姿と重なることが多いんですけど、話していくうちに、かわいらしい人だなっていうのがあって。両方とも、晴ちゃんらしいなって感じましたね。

-ただ大原さんにこれを歌ってもらいたいと渡したときも、長屋さんとしても同じような気持ちがあっただろうなと。

そうですね(笑)。不思議と女性自身が歌っている歌を歌うよりも、かわいい感じがしますね。

-この声が乗るからこそ、ドラマが弾むというのがありましたが、長屋さんの書くメロディって独特の、いわゆる作曲家とはちがった彼女ならではの感覚があると思うんですが、難しさはないですか。

アーティストさんならではですよね。でも難しさがまったくないんです。「透ケルトン」もそうだったんですけど、キーとかも晴ちゃんと似ているんでしょうね、めちゃめちゃ歌いやすくて。フィーリングは本当に合うなっていうのは思いました。

-歌声の多彩な魅力が出た、たくさんのシーンが描かれたアルバムですが、タイトルを"l"としたのは。

まず、タイトルを決めるときはいつもシンプルさを大事にしているんです。今回は、こういうご時世になって自分の生活を見つめ直した"Life"だったり、なかなかできなくなってしまった"Live"だったり、あとは人の愛情というもの、家族や友達、ファンのみんなとかいろんな"Love"について考えている時期だったので。いろんなLから始まる単語が溢れているなっていうので、このタイトルになったのと。あとは小文字の"l"にしたのはリード曲が「STARTLINE」で、小文字の"l"にすると、まさにスタートラインの線に見えるかなって思って(笑)。

-"ここから"というイメージなりますね。4月からダブル・コンセプト・ツアー"Which?"がスタートします。このダブル・コンセプトというのはどういう感じなんですか。

今回は1日2回公演で、"-L version -"と"-P version-"に分かれていて。今回のアルバム『l』の曲が多いバージョンと、前作『Passion』の曲が多いバージョンとで、内容がちがうライヴになってます。

-前作『Passion』はあまり消化しきれないままで次に向かっていた感じですか。

もともと舞台"ミス・サイゴン"をやる予定だったので、昨年はツアー自体を予定していなかったんですけど。いつか『Passion』のライヴをやりたいと言っていたので、今回こういう形になりました。ちょうど1年くらい前に、ビルボードとブルーノートでの短いライヴはあったんですが、ツアーは久しぶりなのでどんな感じになるんだろうって楽しみです。