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INTERVIEW

Japanese

亜沙

2021年03月号掲載

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世界そのものが新たなフェーズに入った今、亜沙がここで呈示するのは『令和イデオロギー』という新たなる価値観だ。和楽器バンドの一員であるのはもちろんのこと、名曲「吉原ラメント」でも知られているように敏腕ボカロPとしても活躍する亜沙が、今ここでソロ・アーティストとして発表する4年ぶりにして5枚目のオリジナル・アルバムは、新たな制作チームとの出会いもあり、従来とは一線を画する音楽アプローチにも果敢に挑戦したものに仕上がったという。最新EDMのニュアンスを取り込んだ斬新なトラックから、V系の遺伝子を継ぐアグレッシヴ・チューン、果ては素朴な弾き語りまで。『令和イデオロギー』とはかくありき。

-実に4年ぶりにして5枚目となる、久々のオリジナル・アルバム『令和イデオロギー』がここに完成いたしましたね。

たしかにアルバムを出す期間は結構空いちゃったんですけど、これを完成まで持っていくのはなかなか大変でした(苦笑)。

-そもそも、亜沙さんは今回の5thアルバムを制作していくのにあたりどのようなヴィジョンをお持ちだったのでしょうか。

オリジナル・アルバムでいうと2017年2月に前作の『麗人オートマタ』、そして2018年9月には『1987』というベストを出したんですが、ここまでの流れとしてはわりとVOCALOIDのセルフ・カバーをする楽曲が多かったんですよね。それだけに、自分としては次にアルバムを出すのであれば基本的に全部を書き下ろし楽曲にしたいなと思ってました。まぁ、タイミング的な面で、思っていた以上に今回のリリースまでには時間がかかってしまったところがあるんですけど、ここに来てやっと自分のアルバムを出すことができて良かったです。

-まず今回は「平成が終わる日」についてのお話からうかがってまいりましょう。こちらはつまり、このタイトルどおりに平成から令和と変わる境目の時期に作られていたものということになりますか?

西暦でいうと2019年の5月1日から新しい元号に変わって、現上皇陛下が退位され新天皇が即位されるということが決まったときに、自分としてはこの"平成が終わる日"というタイトルで曲を作って、平成が終わるまさにその日に出したいと思いまして。それで、実際にこれは平成31年4月30日にYouTubeに初めてアップしたんですよ。思いつきと言えば思いつきでしたけど、あれはやってみて良かったなと思いますね。

-そして、この「平成が終わる日」という曲があったからこそ今作の"令和イデオロギー"というアルバム・タイトルが生まれていくことにもなったのではありませんか。

そうですね。時代が移り変わるその瞬間に立ち会えたことで、このアルバム・タイトルが生まれたというのはあったと思います。

-ところで。今作におけるリード・チューンというのがどちらになるのですか?

2曲目に入っている「Moonwalker-月の踊り手-」になります。先日はMVも撮ってきまして、発売日頃に投稿する予定です。

-この「Moonwalker-月の踊り手-」という楽曲を仕上げていく際、亜沙さんとしてはどのようなコンセプトを立てていらしたのです?

自分が今まで作ったことがないような曲を作りたい、という気持ちがまず先にあったんですよ。これまで自分のソロはもちろん、当然ながら和楽器バンドでもいろんな曲を作ってきてはいるんですけど、ある程度の曲数を作ってくると自分でも独特なクセっていうんですかね。どこか自分ならではのパターンみたいなものができてくるなという自覚は持っていて、今回はあえてそこから外れた雰囲気の少し変わった曲にしてみたかったんですよ。あとは、今回からソロの制作の環境が変わってA&Rが新しくなったというのも今までとは違うことに挑戦できた一因ではあるでしょうね。そのA&Rから、"この曲では若いアレンジャーを使ってみたらいいんじゃないか"という提案があったんです。

-こちらの編曲クレジットには、亜沙さんだけでなくebaさんという方のお名前が見受けられますね。

このebaさんとの作業はすごく面白かったですね。どうも彼と僕は同い年くらいみたいで、話をしたときに聴いてきた音楽や今リアルタイムで好きな音楽も近かったんですよ。だから、そういう共通する音楽的シンパシーを感じながら、新しい出会いから生まれる今までにない音を作ることができたんじゃないかと思います。そもそも、人と一緒に作るっていうこと自体も良いなと感じましたし。もちろんソロなわけだし、全部を自分ひとりで作るのもそれはそれでいいんですけど、第三者である誰かと作っていくとやっぱり拡がりが出てくるんですよ。新しい可能性を求めて、新しいエッセンスを加えることができたことは、思っていた以上にいい結果につながりました。とても自分のためになったなぁ、と思います。

-まさに、この「Moonwalker-月の踊り手-」の音像からは新鮮さを強く感じます。

流行りの展開も入れてありますしね。あと、コーラスに関しては民謡の要素も入れてあります。THE CHAINSMOKERSとか聴いててすごく好きなんで、イメージとしてはそういう方向に寄せたかったっていうのもあります。なんか、僕は名称を知らなかったんですけど最近流行りの音楽にはだいたいドロップっていうセクションがあるみたいなんですよ。

-なんでも、そのドロップという概念はEDMシーンから生まれたもののようですね。

ええ。要は曲のサビに行く前にインストでワンクッション入る感じをドロップって呼ぶらしいんですね。こういう曲展開って最近かなり流行ってるよなぁ、というのは知ってたんですけど、それにドロップっていう名前がついてることは今回ebaさんから初めて教えてもらいました(笑)。というわけで、この曲にもそのドロップを入れてあります。

-それだけ音像に新しい要素が入ってきたということは、亜沙さんはその曲を歌っていくうえでも今までにないスタンスをとっていく必要があったのかもしれませんね。

意外と歌に関しては、そこまで深く考えてなかったかなぁ。できた音に対して、むしろ自然というか普通の感覚で歌っていた感じでしたね。

-では、「Moonwalker-月の踊り手-」の歌詞を書き上げていくうえで重視されていたのはどのようなことでしたか。

歌詞はデモの段階からある程度はつけていたんですけどね。デジタル要素の強い音になっていることもあって、ここでは詞も現代のデジタル社会やSNS社会をモチーフにしながら書いてます。

-亜沙さんしかり、私たちもまた、今やデジタルなものやSNSを便利に使って日々暮らしているのは事実だと思うのですが......この詞の言葉の並びから推測するに、亜沙さんはそんな日常に対してどこか息苦しさのようなものも感じていらっしゃるようですね。

これは僕個人がどうこう、っていうよりもどちらかというと俯瞰で見たときの"現代の人々って息苦しそうだな"という感覚を言葉にしたって言ったほうが正しいかな。いや、僕もそういうことを思うときはたまにありますよ。SNSってもちろん便利なものではあるけど、時には"めんどくせーな"って思うことはあるし(苦笑)。

-誰しもそれはあるでしょうね。たとえ当事者ではなくとも、どこかで何かが炎上している案件を遠目にしているだけでも"大変そうだな"と思いますし(笑)。

LINEの既読機能とかもねぇ。"こんなものがあるから......!"って思うことも多々ありますからね。

-多々ですか(苦笑)。

マジで、たまにスマホをブッ壊したくなるときありますよ。ピョコピョコずっと鳴ってたりしてるときとか、"こんなものがあるからいけないんだ!!"って壁に叩きつけてやろうと何度思ったことか(笑)。といっても、僕の場合はせいぜいその程度ですけどね。中には、ひとつのニュースをきっかけにしてみんなで誰かを総叩きする事態とかも起きるわけじゃないですか。たとえ自分には直接関係なくても、そういうのがタイムラインに流れてきちゃいますからね。そういうことがしょっちゅうだと、だんだん疲れてきちゃうんですよ。なんでこの人、いきなりここであの人に噛みつきだしたんだろう? とか(苦笑)。

-あるあるですね。特に、コロナ禍になってからは妙に攻撃的になられた方なども見かけますし。おそらく、似たようなことを感じている方はたくさんいらっしゃるはずですよ。

そうそう、きっと近いことを感じてる人はいっぱいいるだろうなと思って。別に、誰かを批判する気とかはまったくないんですけど、僕としては今思ってることを書いただけです。

-なお、先ほど「Moonwalker-月の踊り手-」についてはMVもすでに撮了しているとのことでしたが、映像のもととなるプロットも亜沙さんが手掛けられているのですか?

今回のMVに関しては、映像美というのをテーマとして考えていたんですよ。だから、僕自身が細かく何かを決めるというよりはおおまかな方向性について監督にご説明して、それに沿った映像を作っていただくことになりました。でも、曲がこういうデジタル系の音が主軸になっている四つ打ち系のものなので、ダンサーを入れて撮るっていうのは僕からのアイディアでしたね。もともと僕はバンドの人間なので、結局このダンサーを入れるというのも自分としては初めてのことだったんですよ。

-そこで亜沙さんご自身も踊ってみる、という選択肢はありませんでした?

まさか! 監督からも"亜沙さんも踊りますか?"って言われましたけど(笑)、"僕は踊れません"って返しましたよ(笑)。今回は自分が前に出て何かするというのではなくて、ダンサーの方たちのパフォーマンスを交えながら、曲全体のイメージやMVとしての映像美や完成度を追求していくかたちのものにしたかったんです。