Overseas
THE STRUTS
2020年11月号掲載
Member:Luke Spiller(Vo) Adam Slack(Gt)
Interviewer:増田 勇一
THE STRUTSから待望の新作『Strange Days』が到着。本作は"ストレンジ"な状況下、初めて同じ場所で、同じプロデューサーと集中して制作された。DEF LEPPARDのPhil CollenとJoe Elliott、Tom Morello(RAGE AGAINST THE MACHINE etc.)、Robbie Williams(ex-TAKE THAT)、THE STROKESからAlbert Hammond Jrといった超強力なゲスト陣も参加した勢いのある1枚について、Luke SpillerとAdam Slackに訊いた。
-本日はとにかく新作の『Strange Days』について聞かせてください。こんなコロナ禍の真っ只中、まさかアルバムを完成させていたとは驚きでした。誰にも気づかれないうちに超極秘のうちに作ってしまうというのが、あなた方の狙いだったんでしょうか?
Luke:その通り! そもそも考えていたのは、とにかくスタジオに入ること。ちゃんと検査を受けて全員陰性だと判明したから、そのまま10日間、ロサンゼルスにあるプロデューサーのJon Levineの自宅を根城に、自主的にロックダウンに入ることにしたんだ。この件について超シークレットにしてたのは単純に、たぶんそこでできるのは2曲か3曲、うまくいっても4曲ってところかな、と自分たちでは思ってたからでしかない。ところが3日目、4日目あたりに差し掛かってきたあたりで、それどころの順調さじゃないってことが見えてきたんだ。"ワオ! なんかすごくいい流れができてるんじゃないの?"ってね。それで結果、アルバム1枚作ってしまおうってことになったんだ。つまりそもそもは、俺たちの内誰ひとりとしてアルバムを作るなんてつもりじゃなかったってこと(笑)。おかしな話だけど、ホント急転直下って感じだった。でも基本的に、この件について秘密にしておくことにはこだわってたし、そこは意図的だった。理由は、外部の大勢の人間の意見から自由になりたかったから。マネージャー連中も例外ではなくて、彼らもすべて完成するまでひとつの音たりとも耳にしてない状態だった。そういう意味じゃ、かなりの実験だよね。そして、最高の結果が生まれたってわけ。
-誰からも指図されない環境で好きにやれた、ということですね。しかも、マネージメントからの信頼も厚いんだな、ということがよくわかります。
Luke:うん。できたものを信じてくれたとは思う。ただ、いわゆるポスト・プロダクションの段階で、マッサージを施す感じで手伝ってくれてはいるよ。やっぱり、ロジスティックな面でかなり大変なところもあったからね。Robbie Williams(ex-TAKE THAT)、Albert Hammond Jr(THE STROKES/Gt)とか、DEF LEPPARDの面々(Phil Collen(Gt)、Joe Elliott(Vo))とか、フィーチャリング絡みの問題でいろいろと面倒もあったんだ。実は今回は、そこが一番大変だった。レコーディング自体は案外簡単だったんだけど(笑)。ただ俺たち、実はこんなふうにレコードを作りたいって前々から思ってたはずなんだよ。そしたら世界が停止してしまった。ストレンジな日常に陥ってしまったんだ。そのことがきっと、何かやりたいという俺たちの燃えるような欲求の炎に油を注いだんだろうな。そして持ち前の創造性がドッカーンと爆発したというわけ(笑)。
Adam:今のLukeの話にあったように、誰も俺たちが何をしてるか知らなかったし、自分たちでもそのままアルバムを完成させることになるとは思ってなかったし、それ以前に、まさかツアーができなくなるなんて思ってもみなかった。だから世の中がストップしたことが俺たちの創作意欲を焚きつけた、というのは間違いないと思う。前々からこうやってアルバムを作りたいと思ってたんだ。プレッシャーを感じずに、曲を細かく解剖するようなこともせず......。これまでの2枚の制作はそういう感じだったんだよ。いわゆるヒット曲を期待されてそれを書こうとしてしまう、みたいな傾向もあった。でも今回はそういうのは一切なしで、自分たちがいいと思ったらなんでもアリ。実際こういう作り方は初めてだったから、すごく新鮮だった。
-作品自体からすごく勢いを感じます。これまでの2枚のアルバムももちろん大好きですけど、"このバンドに期待してたのはコレ!"という感じで、一気に聴けてしまう気持ち良さがある。そして、先ほどの回答の中でストレンジという言葉が出てきましたけど、それはまさに今作にとってのキーワードと言えるんじゃないかと感じます。アルバム自体も"Strange Days"と命名されることになったわけで。
Luke:そのタイトルについてはまさに文句なしの決定だったよ。だって、このレコードの曲作りとレコーディングは、ロックダウン下というきわめて不安定な時期に行われたわけで、その閉塞感みたいな要素もここには表れてると思うからね。スケールの大きな曲でも、音的には小さな部屋で録った感じが伝わるはずだし。そういったことも含めて、"今回の体験を総括してどんな感想を?"と自問してみたときに、もうあのタイトルで決まりだった。「Strange Days」という曲自体が完成したのは最後から2番目で、そこが曲作りの流れにおけるひとつのクライマックスだったよ。理由はいくつかあるけど、ひとつには、そのあとに作ったのが、「Am I Talking To The Champagne (Or Talking To You)」だったことがある。あれもその数日前からアイディアをいじくり回してた曲だったけど、「Strange Days」が片づいたところでみんな"ふーっ。よし、ここまで来ればもう大丈夫!"って感じになれてたというのも大きかった。歌詞的にも「Strange Days」は間違いなくこのアルバム全体を物語るものになっているし、ああいうドラマチックな曲でアルバムを始めるというのは結構思い切った判断だったよ。大きな変化でもあったと思う。あの曲が冒頭に置かれてることで、アルバムをひと通り聴いて旅を終えたところで、また振出しに戻ってあの曲を聴きたくなるというストレンジなループにはまる感じがするんだ。つまり、「Am I Talking To The Champagne (Or Talking To You)」を聴き終わると、なんとなくまた最初に戻りたくなって"あれ? なんか繰り返し聴けちゃうな、この感じは"ということになる(笑)。
-ええ。そのループにはまると抜け出せなくなるんですよ。
Luke:まさに狙い通りだ(笑)。そんな一方で、今回のアルバムを作るにあたって、ぜひRobbie(Robbie Williams)に参加してもらいたいっていう願望が事前にあった。それは、彼のような昔ながらのソングライティングの感じが欲しかったからなんだけど、参加してもらうんだったら、彼の最高傑作に負けないくらい豊かな質感を持つ曲じゃないと駄目だよなと思ってね。例えば、彼の曲で言うなら「Angels」とか「Feel」、「She's The One」みたいな、THE BEATLESが書いたんじゃないかと思えるような、素晴らしいバラードとかがあるじゃないか。だけど「Strange Days」はわりと早い段階でそういう感じの曲になっていったんで......そういったいくつかのアイディアのマリアージュみたいな感じで、本当に特別な曲になった。しかもあの曲が、今回の体験全体を総括するものになっていたりもする。俺たちみんな、レコーディングを始めるにあたって、"もしも今のこの空気を形にできたら最高なんだけどな"と思ってたし。
-Adam、あなたもRobbieの曲や、彼がいたTAKE THATに思い入れを持っていましたか?
Adam:Robbieのソロ作のファンだよ。子供の頃に『Sing When You're Winning』ってアルバムを聴いて、すごく好きになったのを憶えてる。俺の世代はTAKE THATを知るにはちょっと若すぎるというか、当時はまだ小さすぎたかな(笑)。だけどRobbieの音楽は、子供時代の記憶の一部だったと言っていい。イングランドではとにかくビッグな存在だったし、彼のヒット曲は誰もが知っていた。「Angels」とか「Strong」とか、そのへんの曲はイングランド育ちだったら必ず聴いてるはず。ある意味、OASISとかと同じ感じだと言っていいはずだ。90年代の、特に95年以降のサウンドって感じ。だから俺も前からファンだったし、まさに夢が叶ったようなもので、この間も従兄弟と話してたんだ。"彼が俺たちの曲で歌ってるなんて、すごくない?"ってね(笑)。
-そのRobbieとのヴォーカル・レコーディングのときのことを教えてください。たしか、彼の家の玄関先で録ったんですよね?
Luke:うん、あれはマジで滅多にない経験だった。まず俺は、ビバリーヒルズにある彼の豪邸に赴いたんだけど、のっけからすごくストレンジな感じでね。俺は門のところで車から降ろされたんだけど、すぐそこに玄関があってチャイムを鳴らして、というつもりでいたらとんでもなかった。そこから玄関まで、なんと1マイルぐらいありやがるんだ(笑)! "ジュラシック・パーク"かと思うようなゲートから入って、15分ぐらい酷暑の中を歩く羽目になって、それでようやく家に辿り着いた。目の前にそびえる馬鹿デカい豪邸の左側には彼の所有する車が何台も並んでいて、右側はいわゆるポーチになってるんだけど、そこにまた堂々たる柱が2本立っていて、建物の中に入るのに階段を4、5段上るようなつくりになっていてね。そこに、俺よりもちょっと先にプロデューサーとエンジニアが到着していて、ラップトップやらインターフェイス、マイク2本がセッティングしてあった。
-すごい状況ですね。現実離れしてるけど、なんだか目に浮かぶようでもある。
Luke:ふふふっ(笑)。そしていよいよ、あのRobbie様の登場だよ。娘さんもいて、彼女が俺たちの大ファンだそうで大喜びしてくれたんだけど、そんなことすらストレンジなもので、すぐに消毒しなきゃならなかったり、せっかく会えたのに10フィートとか11フィートとかお互いに離れて話さなきゃならなかったり、ドア越しにやりとりをしたり......。Robbieとはまず庭で、ちょっと近況報告をし合って、その間にプロデューサーのJonが準備を整えた。Robbieは"すごく気に入ってずっと聴いていたんだ。とても特別な曲だと思う"と言ってくれて、めちゃくちゃいい雰囲気だった。"君たちは本当にユニークなことをやっているよ。俺も参加できて嬉しい"ってね。俺はもう、ただただ彼に感謝するばかりだった。そして15分後に歌入れが始まったんだけど、まさにマジックだった。俺的にストレンジだったのは、この自分が世界最大のスターのひとりである彼の隣に立って、ああしろ、こうしろと指図しているという図だよ。歌い方とかをね。"これって、どうなの?"って感じだった(笑)。でも、最高に楽しかったね。
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