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INTERVIEW

Japanese

トップハムハット狂

2020年09月号掲載

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昨年リリースされた『Watery Autumoon』の収録曲「Princess♂」のミュージック・ビデオが1,300万回再生を突破。今ネット・シーンで大きな注目を集めるラッパー、トップハムハット狂が9月2日に新作EP『Jewelry Fish』をリリースする。四季EPシリーズの第3弾、夏編となる今作はコロナ禍に制作されたということもあり、この状況下でいかに生きるかというトップハムハット狂の内面が、より生々しく浮き彫りになっている。これまで数多くのユニットとして活動をしてきたトップハムハット狂が、ソロで突き詰めたい表現とはなんなのか。独創的なラップ・スキルで描く、抒情的且つ美しいリリックで織りなすトップハムハット狂の世界をひもといた。

-昨年10月に公開された「Princess♂」(2019年11月リリースのEP『Watery Autumoon』収録曲)のミュージック・ビデオの反響がすごいですね。この状況はどんなふうに受け止めていますか?

正直、こんなにバズるとは思ってなかったですね。いろいろ要因があったと思うんですよ。TikTokで取り上げられてたり、あと去年の12月に"(週刊少年)ジャンプ"で、尾田(栄一郎)先生がハマってるものを紹介するコーナーがあって、そこに名前を挙げてもらったりもして。それがたくさんの人に聴いてもらえるきっかけになったんだと思いますね。

-それに加えて、「Princess♂」のトラックを手掛けたのが、ハムさんが所属する活動休止中のユニット、FAKE TYPE.のトラックメイカーでもあるDYES IWASAKIさんだったのも大きいのかもしれませんね。実質、FAKE TYPE.の復活なわけですし。

そうですね。久々に昔やってたFAKE TYPE.っぽい楽曲ではあります。やっぱり"このふたりの楽曲を聴きたい"っていうリスナーも結構いるんだなと思いました。

-このタイミングでFAKE TYPE.っぽい曲を作ろうと思った理由はあるんですか?

特に深い理由はないんですけど。久々に、FAKE TYPE.でやってたようなビートの上でラップをしたいなっていう気持ちですかね。そのタイミングで、DYESのほうも、FAKE(FAKE TYPE.)の感じでやりたいみたいなことを思ってたっぽくて。それで実現したんです。

-そのFAKE TYPE.も含めて、ハムさんは00年代からRainyBlueBell、魂音泉、TINY PLANETS、昭和カルテットなど、インターネットを中心に様々なユニットで活動してきたわけですけど。2018年からソロ活動を始めたきっかけは何かあったんですか?

その前の年にFAKEを活動休止したのが一番大きかったんです。お互いにFAKEでやっていたこととは別のことをやりたくなったタイミングがあって。そこで初めてソロをやりたいなっていう気持ちになったんです。

-ソロでやりたい別のことっていうのは、具体的に言うと?

そのときに組んでいたユニットだとあんまり自分自身の根底に思ってること、生活とか、その中で抱く感情とかを出してこなかったんですよ。でも、ソロではそこを出していきたいっていうことですかね。

-より自分の内面を掘り下げるような表現をしたかった。

そう。それをちゃんと音楽で表現したいなって思ったんです。

-ここまでのソロ活動をご自分ではどう振り返りますか?

最初はFAKEの延長みたいな感じではあったんですけど、最近になって親しい人間から"ちょっと見られ方が変わってきた"みたいなことを言われて。自分ではわからないんですけど、少しはソロとしてのかたちが見えてきたのかなとは思います。ただ、自分の中でやってることは変わってないつもりなので、これからも変わらず、自分がやりたいことを優先してやっていくっていうスタンスでいたいなと考えてますね。

-リリックの面で言うと、内面を掘り下げることがソロのテーマだとして、音楽的にはどうでしょう? やはりラップ・ミュージックを突き詰めていきたい?

そうですね。やっぱりヒップホップが好きなので。そのうえで、ちゃんと時代ごとに流行ってる要素を取り入れていきたいんです。ただ、自分の中でのヒップホップの流行はトラップで止まっちゃってて。次に勢いがあるのは何かっていうのが、まだ見えてないんですよ。とにかくチェックし続けないといけないと思ってますね。

-そんなハムさんの最新EPが『Jewelry Fish』になります。『Sakuraful Palette』(2019年4月リリース)、『Watery Autumoon』に続き、四季EPシリーズの第3弾ということで。そもそもどうして四季をコンセプトにした作品を作ろうと思ったんですか?

FAKE TYPE.を始める前に別の友達と一緒に四季EPを作ってたんですよ。それが結果的に世に出せず、ポシャッちゃって。四季を題材にしたものを作りたいなっていう気持ちがずっとあったんです。で、ソロの第1弾として『BLUE NOTE』(2018年リリースの1stアルバム)を出したあと、"作るなら今かな"って着手し始めて、今に至ってます。

-四季をテーマにすることに対して、何か特別な思い入れがあるんですか? それこそ『BLUE NOTE』にも、「Next Season」っていう四季の曲がありますよね。

やっぱり好きなんですよ。四季は日本に特有のものだし、日本人にとって馴染み深いものじゃないですか。あとは、わりと田舎で育ったのも大きいと思います。

-ご出身はどちらですか?

宮城県の仙台です。都会っぽいところもあるんですけど、わりと僕は田舎で育ったので。季節折々に"こういうことをやるよね"っていう行事とかもあった気がするんですよ。それで、四季に魅力を感じるようになったのかもしれないですね。

-作品を聴かせていただくと、そういう田舎の原風景が目に浮かぶリリックもありますよね。今作で言うと、「Lofi Hanabi」とか。

ああ、そうかもしれない。あと童謡も好きなんです。物悲しい雰囲気を持ってたりする。そういうのが楽曲のベースにあるのかもしれないです。

-夏をテーマにした『Jewelry Fish』を作るうえで、"こういう夏を描きたい"というような全体像は何かありましたか?

うーん......特にないかな。全体像っていうよりは、一曲一曲を作りながら、盛り上がり枠は作れたから、じゃあ次は物悲しい曲を作ってみようとかポジティヴな曲を作ろうとか、そういうふうに作っていった感じです。この四季シリーズは、そのタイミングで自分が言いたいことをメインに書いていて、そこに春っぽいな、秋っぽいなっていう言葉を選んでるんですけど、今回はわりとコロナの要素も入っちゃったかなと思ってます。

-あぁ、それは感じました。制作はいつぐらいからだったんですか?

最初に作ったのは「Mister Jewel Box」です。それが1月か2月ぐらいで、それ以降の曲に関しては、本当にコロナがヤバいって言われ始めた頃でしたね。

-特にリリックにコロナ禍の影響が色濃く出てるのは、1曲目「Frisky Flowery Friday」ですかね。とても夏らしい曲でもありますけど。

タイトルの"Flowery Friday"が、直訳で"花金"っていう意味なんですよ。コロナの影響でライヴがなくなっちゃったじゃないですか。それで、4月から金曜日の夜に自宅で月1回の配信ライヴをするようにしたんですけど、そのことを歌ってるんです。"画面越しのエンタメ"とか"3密"とか、この時期っぽいことを散りばめてますね。

-その中で"昨日も今日も明日も変わらず俺であれ 君であれ"という部分が、一番言いたいことなのかなと思いました。

そうです。コロナの影響はいろいろあるけど、それによって自分自身が変わってしまうのは嫌だなと思ったんですよ。だから、俺も変わらないスタンスでいくんで、みんなも変わらないスタンスでいてほしいなっていうことを書きたかったんです。

-リリックを書くとき、意識するのは自分の言いたいことを吐き出すことですか? それとも、リスナーに伝えたいことに重きを置くのか。

半々ですね。そのときに溜まってる言いたいことをバッて書いて。でも、それだけだと攻撃的になりすぎたり、伝わりにくいから、できるだけ入り口が広くなるように言葉を選んでるつもりで。基本的に、そのときそのときの感情を出してはいるけど、「Frisky Flowery Friday」に関しては、少しだけ勇気づけたい気持ちが強いのかな。

-ええ、そう思います。そこが他の曲とは圧倒的に違うなって。

うん。そうやって音楽って色が変わっていくんですね。