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INTERVIEW

Japanese

The Cheserasera

2019年05月号掲載

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Member:宍戸 翼(Vo/Gt)

Interviewer:沖 さやこ

-お話を聞いていると本当にすべてが人生経験の賜物というか。いい意味で前よりも大人になった感慨がありますね。

あははは、恥ずかしいっすね(笑)。聴いてくれた人がどんなふうに思うのかが、楽しみな反面ちょっと怖かったりもして。でもいいものができたと思います。過去の反省として、いいものを作って満足するだけではなく、ちゃんとそれを届けるまでが大事だと感じているんです。身を削ってやっとの思いで訴えたら聴いてもらえるのは「最後の恋」で思い知ったし、『幻』もちゃんと届けていきたい。

-「最後の恋」が広まっていく様子は、"真摯に音楽と向き合っていい曲を作って、覚悟を持って発信すれば多くの人に届くんだ"という証明にもなったと思います。

今の時代は面白キャラだったり、斬新なアレンジ力だったり、広めるテクニックだったり、音楽以外にも才能が必要だと思うんです。このバンドになって今年で10年になるんですけど、この10年で出会った"明らかにこの人は天才だな"と思う人ほど、バンドをやめていってしまうことが多くて。

-そうですね。特にこの10年は、音楽が時代を作ると言うよりは、時代の流れにうまく乗ることが重要な時期でもあったと思います。

僕にとって作品を作るとは、すごく内側に内側に入っていくことで。純粋に音楽をやって純粋にいい音楽を作るだけではバンドがやっていけないこと、音楽しかできない人間にとってつらい時代であることがすごく悔しかった。だから今俺らが粘っているのは、そういう人たちの想いを引き継いでもがいているところもあって。これからもいい演奏といい歌だけは守っていきたいし、3人ともジャケットやCDの中身も全部作り込まないと気が済まない。そのうえで聴いてもらうための努力はしていかないとなと思っていますね。

-The Cheseraseraは10年の活動の中で今が一番届いているし、活動も充実しているのでは?

でも引くくらい「ワンモアタイム」のMV観てもらえてなくて(笑)。

-あはははは、「最後の恋」に比べると(笑)。

少しでも気を緩めたら負けだなと改めて思い知らされました。ケツ叩かれましたね。

-「ワンモアタイム」はしなやかなドラムが爽快感を作っていて、アルバムの入り口には相応しい曲だと思います。バンドマンとしての宍戸さんのメンタリティが生々しく表れている歌詞もパンチラインだらけだなと。

ノンフィクションすぎるんですよね(笑)。どの曲もほんと、思ってることしか言ってない。ヤケクソになってポジティヴになれる人間なので、「ワンモアタイム」みたいな曲を"宍戸っぽい"と言ってもらうことは多いですね。

-特に「ワンモアタイム」には、ダイレクトにバンドマンとしての宍戸さんが表れている印象があります。でも『幻』は「ワンモアタイム」だけで判断できる作品ではないから。

特にアルバムの前半は、新しい面が表れた曲が集中してますね。「Random Killer」は3人でガッとセッションして作った曲だから、歌詞もその雰囲気が出てると思います。どの曲も僕から生まれた何かだったり、身近な人から聞いた話で感じた気持ちだったりを、音像が導いてくれたというか。お客さんの顔が浮かんだ状態で制作ができたので、いろんな角度からみなさんの人生にお邪魔できたらなと。

-新しい挑戦の多いこの作品に、初期曲の「Night and Day」と「愛しておくれ」の再録を収録したのはなぜなのでしょう?

2曲とも廃盤のCDの曲なので、そのCDをオークション・サイトとかで高額で買ってしまう人もいたんですよね。あと、全国流通盤を出すのが『dry blues』(2017年リリースの3rdアルバム)以来なので、『幻』が改めての名刺代わりの1枚になってくれたらなという思いもあって。こうやって再録できたのは、昔から持っている芯の部分が変わっていないからだと思います。

-The Cheseraseraはこの10年で変わってきたという見方もできますし、もともと持っている潜在性を磨き続けてきた、突き詰めてきた部分も大きいと思うので、この2曲の再録はその証明のような印象もありました。

これまでずっと周りにあった音楽、周りにいた人からインスピレーションを受けて、その時々で思っていることを書いてきたなと感じています。そのなかでちょっとずつ変わっている部分もあるし、同じ人間が作っているという意味合いはなくさずに音楽をやれてると思うんです。今回のアルバムも12曲あるけど、44分だから最後まであっという間に聴けるものになったなって。ラストの「横顔」も、バラードだけどしんみりしてない感じが新しいし、力強いものになったなと感じますね。

-そうですね。構えず聴けて頼もしさも感じられる、包容力のあるバラードだなと思います。そして"横顔"や"四月"という言葉は、宍戸さんのイメージに合うなと。

あ、そうですか(笑)?

-真正面ではなく横顔という距離感や、4月の暖かい日と寒い日が入り乱れる様子、新しい生活が始まる希望と不安のような両極端なものが混在しているところとか。

曖昧な感情を歌うのが好きなんですよね。そういう感情は、みんな当たり前のように抱くと思うんです。それを音楽にし続けてきたことで安心できて、次に進んできたと感じますね。ずっと抉るような、絞り出すような曲ばかり書いてきたので、構えず聴いてもらえるのはすごく嬉しいことかもしれない。聴いてくれる人にとってうまい酒みたいなアルバムになったらいいなぁ。アルコール度数結構強いのに、口当たりが良くてスッと飲めちゃう酒だったら最高ですね。

-丁寧に作ったいい日本酒が揃ったような、バラエティ豊かなアルバムが完成したと思います。そしてこの日本酒は、聴く人と杯を交わしてこそ味わい豊かになるんでしょうね。

早くみんなでこのアルバムを楽しみたいですね。最近ライヴの練習をしてるんですけど......『幻』は今までにやったことがないことをたくさんしてるし、曲によって演奏の仕方も全然違うので、すごく難しくて(笑)。でもそのぶんいろんな感情が届けられるとも思います。今は3人全員届けることも大事にしているので、いい演奏はもちろん、それ以外にも立ち振る舞いや見せ方にも力を入れたライヴをしていきたいですね。ずっと"俺なんかがこんなことして......"みたいな気持ちがあったんですけど(笑)。

-(笑)謙虚な心は大事ですが、卑屈になってしまうと宍戸さんの作る曲を好きだと言ってくれてる人も悲しみますよ。

いやー、本当にそうですよね! そういう心がすぐ発動しちゃうから(笑)、そこから振り切ろうと思います。今回のワンマン・ツアー(6月から7月にかけて開催)において、それが僕にとっての挑戦でもありますね。