Japanese
ずっと真夜中でいいのに。
2023年06月号掲載
Writer : 高橋 美穂
生々しい本音と、ファンタジックでカオティックな表現を壮大なエンターテイメントに昇華したライヴ映像も
ずっと真夜中でいいのに。が、3rdフル・アルバム『沈香学』(読み:ジンコウガク)を6月7日にリリースした。フル・アルバムとしては、2021年2月にリリースした2nd『ぐされ』以来、約2年半ぶり。その間ライヴに制作に勤しんできたずとまよ(ずっと真夜中でいいのに。)の成長、そして変わらない"真ん中"にあるものが味わえる全13曲が収録されている。 「花一匁」では、まるでスパイ映画のオープニングのように、ホーンが高らかに鳴り響く。クールな印象に拍車を掛けるようにチョッパーが炸裂すると、ACAねが"ずっと真夜中でいいのにって溢した午前5時。/目に見えてんのは 波形だけです 腐れたデモベース"と歌い出し、彼女のリアルな生活が垣間見えてくる。"何か出来そうな夜更かし/成仏させた詩/特別なキャラに期待はしないで/Tシャツも しわくちゃ"というフレーズも、本音を吐露したのかな? と思わせる。続く、アニメ"チェンソーマン"エンディング・テーマとなって世の中を騒がせた「残機」も、チョッパー始まり。歌もピアノもせわしなく畳み掛けてきて、瞬く間にずとまよの世界観に引きずり込まれていく。"うざいくらい 叫んだって喰らったって/譲れない日々よ 栄養になってまた 汚しあえ"など、ACAねのしたたかさが感じられるフレーズも際立っている。さらに、懐かしいテイストのシンセからスタートする「猫リセット」は、ACAねの柔らかな歌声が印象的。具体的なワードを織り交ぜた抽象的な表現は、様々な想像を呼び起こすが、"ギターの弦費 食費 交通費/喉仏 行き場のない米と涙ぶつかる/いずれは価値になる? そう言い聞かせ眠る"のところは、特に秀逸だと思う。
ずっと真夜中でいいのに。『花一匁』MV (ZUTOMAYO - Hanaichi Monnme)
ずっと真夜中でいいのに。『残機』MV (ZUTOMAYO - Time Left)
ずっと真夜中でいいのに。『猫リセット』MV (ZUTOMAYO - Neko Reset)
ギターのカッティングから幕を開け、途中の歪んだギターもアクセントとなっている、ギター主体のトラックの「綺羅キラー(feat. Mori Calliope)」は、歌詞も次々と飛び込んでくる攻撃的なナンバー。"最低なコンプだし 最高の昆布だし/揃ってるだけじゃつまらんし/繋いだって綻ぶし しょっぱいな鰹節"というフレーズは、口に出して気持ち良くて面白いうえに、"出だしの荒削り衝動 ここにある"に繋がるという華麗な展開も聴きどころだ。不穏でダンサブルなイントロの「馴れ合いサーブ」は、"適当ラリー やりとりが/唯一の居場所感で/仲良しこよしなんて/馴れ合いサーブでしょ"というフレーズで曲名の意味合いが明かされ、"......わかる"と思わずにはいられない。
ずっと真夜中でいいのに。『綺羅キラー (feat. Mori Calliope)』MV (ZUTOMAYO - Kira Killer)
すでにライヴでもお馴染みの「あいつら全員同窓会」も収録。アンニュイな歌い出しから、徐々にきらびやかに展開していき、パッとサビで目の前が開ける。何曲かぶんのアイディアを盛り込んだように感じられるほど多面的な楽曲であり、ある一面から見ると、ものすごくスマートなJ-POP。しかしながら、この楽曲のようにひと匙のカオスを加えてしまうのがずとまよの魅力なのだと思う。
ずっと真夜中でいいのに。『あいつら全員同窓会』MV (ZUTOMAYO - Inside Joke)
「夏枯れ」は、シティ・ポップな雰囲気。エモーショナルな歌声と、"缶ジュース零した水しぶき/シャツの群青色が滲んでく"という、瑞々しい描写の歌詞が新鮮。80年代のCMソングみたいな爽やかさに、ACAねの芸達者ぶりを痛感する。次の「袖のキルト」でも、爽やか路線は続いた。ギュッと言葉を詰め込まないと、ACAねの歌声は、曲調によってこんなにも清涼感を呼ぶんだと気づかされる。さらに、ACAねがよく使うダブル・ミーニングの中でも、この楽曲の途中の"僕のキルト"とラストの"僕を着ると"は、ハッとする人が少なくないだろう。続く「不法侵入」も、アコギとシンセがキラキラした印象を与えるナンバー。ドキリとするような曲名も、歌詞を聴くと"攻略も作戦もいらない/君のぬくもりが不法侵入"って、そういうことか! とキュンとする。
ずっと真夜中でいいのに。『袖のキルト』MV (ZUTOMAYO - QUILT)
ずっと真夜中でいいのに。『不法侵入』MV (ZUTOMAYO - Intrusion)
"お線香の匂い"、"会えない人"という歌詞と切ない歌声を聴いていると、ズキッと胸が痛む物語を思い描いてしまう「ばかじゃないのに」。"ご飯できたよ"、"桃鉄"、"作業着"といった具体的なワードの中でも、"色の濃い野菜ばっかり 湯掻いてた/鮮やかな仕草に 混ざりたいのに/声があるのに いつもどうして"という描写が、やるせないほど瑞々しく響く。ACAねはストーリーテラーとしても、逸材だ。痛みを孕んだ物語は、次の「消えてしまいそうです」にも続く。"君の吸い込んだ空気で/消えてしまいそうです"、"君のSOSは 僕のものって 思い込んだ夏"――特に、このふたつのフレーズは、過去の記憶を掘り起こすと身に覚えがある人もいるだろうし、数多くの共感を集めるのではないだろうか。
ずっと真夜中でいいのに。『ばかじゃないのに』MV (ZUTOMAYO - Stay Foolish)
ずっと真夜中でいいのに。『消えてしまいそうです』MV (ZUTOMAYO - Blush)
アルバムはラストに向けて、今一度アッパーなゾーンへ突入。「ミラーチューン」は、軽快なギターのカッティングとキュートなカウント、からのコーラスでオープニングから華やかである。高らかなホーンなどおもちゃ箱のように様々な音色が飛び出すトラックも、"君がいなきゃ はじまんない/歌うぜ GACHIフォー・ユー/どんな逆境だってあっちゅう間だ/頑固な 僕だって/めんどくさい☆諦め悪いみたい"などといった陽キャを思わせる歌詞も、とにかく楽しいパーティー・チューンだ。そして、曲名も含めてドキッとする「上辺の私自身なんだよ」を、穏やかなトラックに乗せて歌い上げて、アルバムはエンディングを迎える。"紛い物が心地いい なんて/上辺の私自身なんだよ"、"こんな目に見えない絆創膏/になりたいし味方でいたい"などといったフレーズは、アルバムを最後まで聴いた人だけに届けたい、ACAねの心の奥底からのメッセージに感じられた。
ずっと真夜中でいいのに。『ミラーチューン』MV (ZUTOMAYO - MIRROR TUNE)
なお今作の初回限定盤には、2023年1月15日、国立代々木競技場 第一体育館で開催されたライヴ"ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~"の模様を、全24曲完全収録したBlu-ray/DVDがついてくる。こちらも、非常に見応えのある作品。再生した途端に、これをどうやって会場に造り上げたのか? と思わされる、壮大な、ひとつの町のようなステージ・セットがそびえ立っていたのだから。さらに、ステージ上にいったい何人がいるのか? と思わされるほど大所帯なバンドの迫力ときたら! ギターだけではなくドラムもツイン、そしてホーン隊やストリングス隊、さらに津軽三味線やオープン・リール、TVドラムといった、普段のライヴではなかなか見ない楽器も交えて、分厚い演奏を展開しているのだ。個人的にはヘヴィ・ロックじゃないけれど、SLIPKNOT(やや昭和のヤンキー感も含めて)+α、×エンターテイメント∞といった途方もない方程式が脳裏に浮かんだ。トドメにオープニングは、1月に行われたこともあってか茂住菁邨氏(4年前、当時の官房長官が掲げた"令和"の文字を揮毫した書家)による"叢雲開幕"の書き初め実演! その真ん中で、ギターとヴォーカルだけではなく、独自の楽器"扇風琴"を手にしてショーを引っ張るACAね。そういう意味では、実際に足を運んだ人も、もう一度この映像で観てみてほしい。細やかなところまで映し出されているので、改めて、画期的なエンターテイメントを体験していたことに気づけるはずだ。
タイトルにも掲げられている(昭和の)ゲーム感と、古来の神話を思わせる"叢雲のつるぎ"が令和の今交ざり合っているステージは、カオティックでファンタジックで、"ここにしかない"ものを感じさせる。そこを仕切るACAねは、顔も見えない、匿名性の高いアーティストであるがゆえに、別世界から舞い降りたようにも見えた。しかし『沈香学』に関しても記したように、楽曲には彼女自身の本音とメッセージが込められているのだ。その生々しさによって、オーディエンスはこのステージに没入してしまう。そんな見事なコントラストが成立していた。
時代の流れが速すぎる昨今でも、ずとまよの表現はブレることはない。『沈香学』に触れると、そんな確信が生まれてくる。それはきっとあなたの胸を高鳴らせ、必携グッズであるしゃもじを叩きたくなる衝動を生み出すはずだ。
▼リリース情報
ずっと真夜中でいいのに。
3rdフル・アルバム
『沈香学』
NOW ON SALE
【初回限定DELUXE BD盤】(2CD+BD)
UPCH-29455/¥9,900(税込)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
・豪華魔導書パッケージ仕様
・「ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~」2023.1.15公演を完全収録(プレイパス®対応)
・「ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~」の舞台裏映像収録(プレイパス®対応)
・GAME CENTER TOUR 『テクノプア』ツアーファイナルの舞台裏映像収録(プレイパス®対応)
・副音声"ACAね ゆる解説ライブ反省会ソロ"収録
・アルバム全楽曲のオフボーカル(インスト)収録
・ACAね曲作り機密文書
【初回限定LIVE DVD盤】(1CD+DVD)
UPCH-29456/¥6,600(税込)
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TOWER RECORDS
HMV
・「ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~」2023.1.15公演を完全収録(プレイパス®対応)
※パッケージはノーマル仕様
【通常盤】(1CD)
UPCH-20651/¥3,300(税込)
amazon
TOWER RECORDS
HMV
[CD] ※全形態共通
1. 花一匁
2. 残機
3. 猫リセット
4. 綺羅キラー(feat. Mori Calliope)
5. 馴れ合いサーブ
6. あいつら全員同窓会
7. 夏枯れ
8. 袖のキルト
9. 不法侵入
10. ばかじゃないのに
11. 消えてしまいそうです
12. ミラーチューン
13. 上辺の私自身なんだよ
[DELUXE盤 DISC2]
全楽曲のインスト収録
[Blu-ray]
・「ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~」2023.1.15公演を完全収録(プレイパス®対応)
・「ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~」の舞台裏映像収録(プレイパス®対応)
・GAME CENTER TOUR 『テクノプア』ァイナルの舞台裏映像収録収録(プレイパス®対応)
・副音声"ACAね ゆる解説ライブ反省会ソロ"収録
「ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~」
1. 叢雲開幕
2. サターン
3. MILABO
4. 居眠り遠征隊
5. お勉強しといてよ
6. 猫リセット
7. 勘ぐれい
8. 秒針を噛む
9. 勘冴えて悔しいわ
10. 雲丹と栗
11. ばかじゃないのに
12. Dear. Mr 「F」
13. 夜中のキスミ
14. 暗く黒く
15. 脳裏上のクラッカー
16. ミラーチューン
17. 正義
18. 残機
19. ラストエリクサー
20. 胸の煙
21. 過眠
22. 綺羅キラー (feat. Mori Calliope)
23. あいつら全員同窓会
24. 叢雲終幕
[DVD]
・「ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~」2023.1.15公演を完全収録 (プレイパス(R)対応)
「ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~」
1. 叢雲開幕
2. サターン
3. MILABO
4. 居眠り遠征隊
5. お勉強しといてよ
6. 猫リセット
7. 勘ぐれい
8. 秒針を噛む
9. 勘冴えて悔しいわ
10. 雲丹と栗
11. ばかじゃないのに
12. Dear. Mr 「F」
13. 夜中のキスミ
14. 暗く黒く
15. 脳裏上のクラッカー
16. ミラーチューン
17. 正義
18. 残機
19. ラストエリクサー
20. 胸の煙
21. 過眠
22. 綺羅キラー (feat. Mori Calliope)
23. あいつら全員同窓会
24. 叢雲終幕
【全形態共通外付け先着特典】
①ZUTOMAYO CARD 第1段ベーシックパック (カード5枚+ステッカー1枚) ※全104種(UR/SR/R/Nのレアリティ有り)
②「沈香学」限定ZUTOMAYO CARD 1枚(数種類ランダム)※限定ACAね サインカードレアも含む。
・数量限定の先着特典につき、各SHOP無くなり次第終了となります。
・ZUTOMAYO CARD ベーシックパックは、公式ショップで販売中の第一弾商品と同一です。
https://official-goods-store.jp/zutomayo/v2/product/detail/ZMY088
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Warning: include(): Failed opening '../../../release_info/index_top202306.php' for inclusion (include_path='.:/usr/local/php/8.3/lib/php') in /home/gekirock2/www/2025skream/feature/2023/06/zutomayo.php on line 504
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