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FEATURE

Japanese

柊キライ

2023年02月号掲載

柊キライ

Writer 稲垣 遥

2022年、国内音楽シーンの話題を席巻し、快進撃を遂げたアーティストのひとりがAdoと言って異論はおそらくないだろう。そんな彼女と同時期に注目を浴び始め、彼女との縁も紡ぎながら、今支持層を拡大している柊キライというボカロPがいる。その柊キライが、2ndアルバム『スクラップファーム』をリリースした。

柊キライは、2019年1月に楽曲「ビイドロ」を公開し活動をスタート。同年8月にアップした7曲目「オートファジー」で"殿堂入り"(ニコニコ動画再生数10万回以上)、"伝説入り"(再生数100万回以上)を一気に果たし、エレクトロ・スウィングなサウンドに心の闇を映し出す詞を乗せる、その独自の存在感をシーンに示した。なおこの頃から動画のイラスト/映像を、Adoの「うっせぇわ」でお馴染みのイラストレーター、WOOMAが手掛けることが増え、どこか歪でインパクト大の絵の効果もあり、観る者の内側のどろどろしたものに訴え掛けるような、柊キライのダークな世界観を確固たるものとしていく。TikTokでもイラストのキャラクターに扮装して歌い踊るリスナーが登場しているほどだ。勢いそのまま2020年4月に発表した「ボッカデラベリタ」は、YouTubeで2,000万回再生を超える現時点での柊キライの代表曲となり、8月にはそれらをパッケージした1stアルバム『ヘイトフル』を発売した。

さらに、楽曲提供も積極的に行う柊キライ。前述のAdoを筆頭に、そらる、昨年武道館公演を成功させ話題となった歌い手 めいちゃん、ネット発アーティスト以外にも、anoともコラボしたり、サンリオのメディア・ミックス・プロジェクト"まいまいまいごえん"のMVを担当したりと、音楽家としてレンジを拡大中だ。

そんな柊キライの2ndアルバムは、いきなりその毒々しさを濃縮したような、不気味な低音の鍵盤の音が響く「アワーグラス」で幕を開ける。"素面が喉につかえている人の歌"と自身でコメントしているが、"君の身体は傷だらけ/それが羨ましいね"と素直に自分を表出できる人への嫉妬心を吐き出しつつ、"酔いよ 酔いよ 酔いから覚めよ 覚めよ/ダメがヨシになる"と物事の善悪に翻弄される複雑な想いを描いているようだ。続く「ラブカ?」はAdo歌唱バージョンと同時アップされ話題になった1曲。管楽器も取り入れた柊キライらしい怪しげなエレクトロ・スウィングや、"ラ ラ ラ ラ ラ ラブか?"、"甘きラビュー ラビュー ラビューか?"といった言葉のリフレインが呪文のように耳に残る人気曲だ(ちなみに柊キライは作詞に9割以上の時間をかけると語るほど歌詞にこだわっているというだけあり、押韻や言葉と音とのリンクなどの心地よさが凄まじい)。既発の楽曲はMVと併せて聴き浸るのも一興だが、中でも個人的に「ギャラリア」はWOOMAによる映像の没入感も凄まじく必見。幸せに満ちたふたりを夢見た主人公が絶望に陥る悲しいストーリーが、大胆なテンポ・チェンジがあったり、重々しくなったり軽やかになったりする不安定な曲の展開に合わせて緻密に描かれている。また「メビウス」(めいちゃん)、「ラッキー・ブルート」(Ado)など他アーティストへの提供曲もボカロ歌唱バージョンで収録。VOCALOID、flowerの声で歌われることで狂気じみた感じを掻き立てており、提供版とは違う様相を楽しむことができる。

アワーグラス / 柊キライ feat.flower


ラブカ? / 柊キライ feat.flower


ギャラリア / 柊キライ feat.flower


圧倒的に陰鬱なナンバーが並ぶなかで、中盤にはメジャー・コードや楽しげなリズム、言葉も孕むことでより不思議なムードを醸成させる「ハイド&ハイド」、「トゥルーセラピー」などもあり、リスナーを飽きさせない。特にダンス・チーム"KADOKAWA DREAMS"へ書き下ろしたポップで澄んだ印象の「スティール」は異色に感じられるが、そこから未発表曲「メトロン」と低音を抜いた音像で続け、"忘れる 忘れる 忘れる すぐに忘れてしまう"と別視点で空虚感を演出するなど、むしろ柊キライの多彩さやさらなる潜在能力を知らしめているとも言えるだろう。

ハイド&ハイド / 柊キライ feat.flower with.GABULI


トゥルーセラピー / 柊キライ feat.flower


そして終盤は再び不穏な空気を作り上げていくとともに、どこかメッセージ性のようなものも滲んでいるように思える。「ディジーズ」ではアルバムの表題"スクラップ"という単語も出てくるが、ひたすらに自らの罪に対して許しを乞う歌となっており、「エウレカ」でもひっ迫した様子で"正しい人にならせて ならせてくれ くれ くれ"と訴える。そしてラストはどこか牧歌的な音も取り入れた「アカシック」で、落下した木の実が実を結ぶように願っていると歌い、どこまでも堕ちていった先でも決して見捨てず掬い上げてくれるような光の見える余韻を残す。柊キライという闇を押し出す揺るがぬ芯を持ったボカロPの、19曲に及ぶ壮大な物語の締めくくりにして、その人間性が垣間見える気がする一節に辿り着いたとき、あなたはもうその中毒性に取り憑かれていることだろう。

エウレカ / 柊キライ feat.flower


柊キライ 2nd album「スクラップファーム」クロスフェードデモ【2023/1/25Release】



▼リリース情報
柊キライ
2nd ALBUM
『スクラップファーム』

DUED-1300/¥3,300(税込)
amazon TOWER RECORDS HMV
[U&R records]
NOW ON SALE

1. アワーグラス
2. ラブカ?
3. メビウス
4. グリーディン
5. ギャラリア
6. トロイ
7. ハイド&ハイド
8. ラッキー・ブルート
9. フラワーベッド
10. トゥルーセラピー
11. スティール
12. メトロン
13. ヴィータ
14. ディジーズ
15. サクサクリ
16. ファラウェア
17. シーク!
18. エウレカ
19. アカシック

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