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FEATURE

Japanese

マテリアルクラブ

2018年11月号掲載

マテリアルクラブ

Writer 石角 友香

今となっては"Base Ball Bearの小出祐介(Gt/Vo)が主宰する、ソロでもバンドでもなくユニットでもなくグループでもなく新音楽プロジェクト"として認識されるようになったマテリアルクラブ。が、今年9月5日に1stソング「00文法」(読み:ゼロゼロブンポウ)の配信がスタートしたとき、小出とタッグを組んだのが、デビュー同期の盟友であり、7月22日をもって活動を"完結"させたチャットモンチーの福岡晃子であることに、個人的には非常な腹落ち感を抱いていた。ぶっちゃけ、福岡晃子の次なるキャリアの主軸になるものとして、このプロジェクトを見ていた自分がいる。



というのも、両バンドの親交の深さはもちろん、チャットモンチーのラスト・アルバム『誕生』に先駆けてリリースされたアナログ・レコード『たったさっきから3000年までの話』には、「恋の煙 (同期ver.) with 小出祐介 (Base Ball Bear)」を収録。福岡がDTMでのトラック制作を行うようになったことは、チャットモンチーふたり体制最後のアグレッシヴで楽しいチャレンジだった。と同時に小出も昨年のBase Ball Bearのアルバム『光源』において、メンバー以外の楽器を頑なに入れない方針から自由になって、打ち込みを導入し、サウンド面での刷新を図ったのは、両バンドのファンならご存じだろう。手法としての打ち込みが先にあるのではなく、楽曲ありきで新しいバンドのサウンドを模索する両者。そのスタンスは、まさに「恋の煙」のカバーにおいて、溢れるオリジナルへの愛情と、オリジナルから時を経て注がれる小出からチャットモンチーへの想いと共に、サウンドメイクにも溢れていた。なので、10月17日から配信スタートした2ndソング「Nicogoly」にパスピエの成田ハネダ(Key)がピアノで参加していること、そして本稿の主題であるマテリアルクラブの1stアルバムが、他にも意外性に富んだ、しかし小出の人脈からすれば大いに納得な面々が参加した、クラブ=近いセンスや趣味嗜好、あるいは人間が交差する場所になるとわかったとき(気づくのが遅いのだが)、マテリアルクラブは小出のバンドでもアイドルへの曲提供でもない第3のアウトプットとして、構えはフラットだが、彼にとって大きな意味を持つ彼主体のプロジェクトなのだと実感したのだ。



その印象はセルフ・タイトルの1stアルバムを聴くことでなおのこと濃くなる。

アルバムは福岡の、まるで"料理を作るように新しい音楽を作る"と言わんばかりのヴァースを持つ「Nicogoly」から始まる。ロックにヒップホップに、様々な要素が混ざった経験値という、マテリアルクラブの実相を小出のラップがユーモラスに明かす。ここでの成田ハネダの流麗なピアノはまるでジャズのサンプリング音源のようで、生音をどう扱うか? というアプローチをうっすら理解する。続いては1stソング「00文法」の"ver.2.0"、つまり更新版。実質マテリアルクラブの所信表明とも言えるこのナンバーで、小出は"自分の音楽的な出自や影響を容易く今のトレンドに移植しちゃって、自分の音楽と言えるの?"と誰とはなしに問い掛けているように感じる。ガラパゴスと言われようと日本のロック/ポップスから逃げない、逃げられない現実を切実に綴った曲だと思う。音像は無機的に聴こえるかもしれないが、バンド以上に小出祐介というアーティストの本質がわかる。


Mummy-D、TOSHI-LOW、成田ハネダ、吉田靖直ら多彩すぎるゲストのそれぞれの意味


さて、ゲストの多彩さがひもとかれていくその最初は、トリプルファイヤーの吉田靖直(Vo)の、"カーテンをちょっとずつ閉めて"など少ない言葉を切り貼りした、不穏な響きの「閉めた男」。吉田以上に、この意味がないようであるような可笑しみの反復が似合う語り部がいるだろうか。かなりインパクトが強い。場面がガラッと変わって、儚げなエレクトロ・ポップが流れ、小出と福岡が英語詞を歌う。歌詞の英訳とヴォーカル・ディレクションを担当したのはReiだ。"Amber Lies"とタイトルされたこの曲。スターになった青年が、子供のころの些細な嘘を思い出し、目の前のものを何もリアルに感じられないという切なさが、アルバムの中でも異色の存在感を示している。さらにゲストの意外性で言えばダントツなのは、TOSHI-LOW(BRAHMAN)が全編でニュートラルな歌唱を聴かせる「告白の夜」だろう。俳優が歌うAORのようでいて、大人だからこそ歌える青春時代の瑞々しい感性。小出がTOSHI-LOWに素直な歌を歌うようにディレクションしたかどうかはわからないが、とても新鮮な歌が聴けることは確かだ。アーバンでクールな小出のギターと福岡のベースも大きな聴きどころになっている。そしてアルバムの半ばには、"マテリアルクラブ"という架空の空間に生息する"マテリアルアザヌシ"という、これまた架空の動物を、岸井ゆきののナレーションで説明する「Kawaii」。バック・トラックは、非黒人がファンクやアフロビートにアプローチしたような、生身を感じないある種のインダストリアルなビートで、動物ドキュメントのような語りとのギャップに可笑しみを覚える。だが"マテリアルアザヌシ"の生態は、プロジェクトの性質をユーモアに包んで紹介してもいるのだ。

後半は、まずマテリアルクラブの肝でもあるヒップホップの"本職"、Mummy-D(RHYMESTER)とRyohu(KANDYTOWN)の切れ味鋭いラップと、独自の成長を見せる小出のラップがきっちり聴こえてくる「Material World」で、このプロジェクトの本質を作り込みすぎずに伝えてくれる。連想の連鎖が生むリアリティに溢れる終盤の小出のリリックは特に注視してほしい。そしてラジオ・ドラマのように岸井ゆきののナレーションで展開していく、小出の10代の経験と現在の10代のリスナーに対する想像が重なり合ったような「Curtain」。今に対するうっすらした疑問やひとつきりではない可能性に、リアルな10代はハッとするのではないだろうか。そこから続く「WATER」は、小出のスクエアなラップと、汲めども尽きない表現欲求と形に落とし込む地味な作業が目に浮かぶようなリリックが、メロウ・グルーヴに落ちてしまいそうな意識を覚醒させる。そしてエンディングは、シンセ・ベースに象徴される80's感たっぷりの洒落たファンクに、とてつもなくブルージーなリリックが乗る、その名も"New Blues"で、現在地を確認させるような作りになっている。人と違うことをしているつもりが、いつの間にか自分が良くも悪しくも一番変わっていないと気づくとき。"黒いスキニーを履いて逃げる"というフレーズの皮肉と切れ味が凄まじい。この曲には成田ハネダに加え、SANABAGUN.の谷本大河(Sax)と髙橋紘一(Tp)も参加。ファンクを端正に表現するという小出らしいプロダクションが実現している。

平熱感が基本のトラック、想像以上に固い韻を踏むラップ、こぼれ落ちるパーソナルな心情が互いに影響し合って、叙情に流れることがないマテリアルクラブの音楽。日本の音楽の生態系が明らかになったような気持ちだ。



▼リリース情報
マテリアルクラブ
1stアルバム
『マテリアルクラブ』

[Q2 Records]
2018.11.07 ON SALE
VICL-65074/¥2,778(税別)
※初回プレスのみ紙ジャケット仕様
amazon TOWER RECORDS HMV

1. Nicogoly
2. 00文法 (ver.2.0)
3. 閉めた男
4. Amber Lies
5. 告白の夜
6. Kawaii
7. Material World
8. Curtain
9. WATER
10. New Blues

[GUESTS]
吉田靖直(トリプルファイヤー)Track.3
TOSHI-LOW(BRAHMAN)Track.5
岸井ゆきの Track.6、8
Mummy-D(RHYMESTER)Track.7
Ryohu(KANDYTOWN)Track.7
成田ハネダ(パスピエ)Track.1、5、10
谷本大河&髙橋紘一(SANABAGUN.)Track.10

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