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FEATURE

Overseas

MODEST MOUSE

2015年04月号掲載

MODEST MOUSE

Writer 山元 翔一

アメリカのインディー音楽の黄金期真っ只中1990年代半ばに、MODEST MOUSEはIsaac Brockを中心に結成された。WEEZERやPAVEMENT、BECKや盟友BUILT TO SPILLなどに続く形でその活動をスタートさせる。先に挙げたアーティストと同じく、その貪欲な音楽的欲求でローファイやエモ、ポスト・パンクといったオルタナティヴな音楽を始め、カントリーやフォーク、さらにはヒップホップ的なサウンド・アプローチも積極的に取り入れるなど、その音楽的レンジは広く、バンドという言葉よりはむしろ"音楽集団"という言葉がよく似合う。また、メンバーの入れ替わりはあるものの、20年以上に渡り持ち前のDIYスピリットで活動を続ける、まさにUSインディー・シーンの生き証人というべき存在でもある彼ら。後続のミュージシャンにも広く影響を与え、ここ日本においても、OGRE YOU ASSHOLEのバンド名の由来となるエピソード(元メンバーのEric Judyが当時のメンバーの腕に書いた落書き)など、世界中にその音楽的遺伝子を残している。

そんなUSインディーの歴史において、今なお足跡を残し続けるMODEST MOUSEは、1996年に荒々しくも静謐且つ美しいエネルギーに満ちた1stアルバム『This Is A Long Drive For Someone With Nothing To Think About』をリリースして以降、キャリアを重ねるごとにその評価を確固としたものにしていく。2007年にリリースした前作『We Were Dead Before The Ship Even Sank』で全米アルバム・チャート1位を獲得。同作のリリース前後に、元THE SMITHSのギタリスト、現在はソロ・アーティストとしても活躍するJohnny Marrが一時的に加入したことでも話題となった。

今作『Strangers To Ourselves』は、そんな名実ともにアメリカのオルタナティヴ・ミュージックの頂点に到達した前作から、実に8年ぶり6枚目となるアルバムである。前作リリース後、2008年から2010年にかけて世界各国で精力的なライヴ活動が行われたため、今作に至る制作が始動したのは実質2011年以降となるのだが、時を同じくして、サウンドの屋台骨を担ってきたオリジナル・メンバーのEric Judy(Ba)が脱退する。これらの事実から考えても、前作から8年という月日を要したことはある意味必然であったともいえるであろう。

そういった経緯でリリースされる今作に収められた全15曲、1時間弱の音世界は我々リスナーにとっても気軽に消費することなどできない代物となっている。ヴィオラのサウンドと緻密に折り重なる壮大なアンサンブルが印象的なTrack.1「Strangers To Ourselves」で幕を開け、続くTrack.2「Lampshades On Fire」はTALKING HEADSの如きパンク・ファンク、猥雑なヒップホップ・チューンのTrack.4「Pistol(A. Cunanan, Miami, FL. 1996)」と、冒頭から畳み掛ける。全編を通して個性とクオリティの両方を備えた楽曲が並ぶが、今作の1番の聴きどころはTrack.6「The Ground Walks, With Time In A Box」であろう。鋭利なギター・リフとリズミカルなベース・ライン、丁寧に折り重なるパーカッシヴなギターやシンセが印象的で、ディスコ・パンクともいえるニュー・ウェイヴ色の強いサウンドに身も心も躍らされる。

アルバムの後半には、精緻な音の重なりとオルタナティヴなサウンド、Isaac Brockのヴォーカルが光るTrack.11「Be Brave」やTrack.13「The Tortoise And The Tourist」といったMODEST MOUSE節の冴える楽曲が並び、壮大でポスト・ロック的カタルシスを感じさせるTrack.15「Of Course We Know」で静かにその幕を閉じる。

サウンドの振れ幅は大きいのだが、核はブレることなく、孤独と苦悩とアイロニーをないまぜにしたサウンドや音像の緻密さ、ぶっ壊れ気味のポップ・センスには静かな狂気が渦巻き、変わることのないMODEST MOUSEらしさが緩やかに、だが確実に通底している。いわゆる"派手さ"はこのアルバムにはないのかもしれない。しかし20年以上活動する音楽集団にしか醸し出すことのできない、味わい深い滋味や円熟(と呼ぶにはパンクすぎるか)といった、魅力に溢れた1枚に仕上がっていることだけは間違いない。(山元 翔一)

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