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FEATURE

Overseas

James Blunt

2013年10月号掲載

James Blunt

Writer 山口 智男

Ed Sheeran、Ben Howard、Jake Bugg、Tom Odellといった若いアーティストによる活躍がシーンを賑わせ、この何年かガール・パワーに押されていた男性シンガー・ソングライター・シーンが再び活況を呈しはじめている。2004年にデビューしてから3年ごとにアルバムをリリースしてきたJames Bluntのことだから、もちろん、そんな追い風を意識していたとは思わない。しかし、男性シンガー・ソングライターが注目されている現在の状況を考えれば、その先駆者とも言えるBluntの新作『Moon Landing』もまた、これまで以上に注目を集めるにちがいない。その意味では、新作をリリースするにはドンピシャのタイミングだったと言ってもいい。


James Bluntと言えば、大ヒットから8年経った現在も耳にすることが多い「You're Beautiful」を、誰もが思い出すにちがいない。別れた恋人への想いを、"You're beautiful"という極めてシンプルな言葉に託して、ちょっとしゃがれたハイトーン・ヴォイスで歌い上げたこの曲は、元軍人というちょっと変わった経歴を持つシンガー・ソングライターを世界中に知らしめると同時に、多くの人々の目を、誰もが共感できる等身大の想いを赤裸々に歌う男性シンガー・ソングライターという存在に今一度、向けさせた。「Bad Day~ついてない日の応援歌」のDaniel Powterをはじめ、Jason Mraz、James Morrison、Gavin Degrawら、この時期、明らかにブームと言えるほど多くの男性シンガー・ソングライターが歓迎されたのは、明らかにBluntの世界的なブレイクがあったからだ。


「You're Beautiful」が大ヒットしすぎたため、ひょっとしたら一発屋と思っている人もいるかもしれないが、その後もBluntは順調に音楽活動を続け、これまでリリースしてきた『All The Lost Souls』(2007年)、『Some Kind Of Trouble』(2010年)というアルバムはともに本国イギリスはもちろん、アメリカでも大ヒットを記録。因みにデビュー・アルバムの『Back To Bedlam』(2004年)を含め、計3枚のアルバムの総売上は1,700万枚を超えるという。


昨年10月には"今後、曲を書くプランはない。自分自身に使う時間が必要だ"という発言が報じられ"James Blunt引退か?!"とファンを心配させたが、こうして4作目となるアルバム『Moon Landing』が無事、完成した。


"よりパーソナルな内容になっていて、ベーシックに立ち戻ったような作品なんだ"というBluntの発言やデビュー・アルバムのプロデューサー、Tom Rothrockを再び起用して、デビュー・アルバムをレコーディングしたロサンゼルスでまたレコーディングしていることから、今回、Bluntが原点回帰を意識していたことは想像に難くないが、『Moon Landing』はもちろん、単に『Back To Bedlam』を焼きなおしただけの作品ではない。


ピアノ・バラードの「Blue On Blue」やWhitney Houstonの悲劇的な死からインスピレーションを得たという「Miss America」はなるほど、確かに『Back To Bedlam』のメランコリーを蘇えらせるが、その一方でポップなアレンジが効果的に加えられた「Bonfire Heart」「Heart To Heart」「Postcards」といった曲は、サウンド面のおもしろさを追求した『Some Kind Of Trouble』の延長を思わせる。


その意味では、新旧のファンが楽しめる集大成的な作品と受け止めるべきなのかもしれない。手拍子とアンセミックなコーラスを加えた「Heart To Heart」や、ウクレレの軽やかな音色とレゲエ・ビートを加えた「Postcards」は、James Blunt版のサーフ・ソングなんて言ってみたい前作収録の「Stay The Night」同様、また新たなリスナーにアピールしそうな魅力も感じられるのだ。

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