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Overseas

SLEIGH BELLS

2012年03月号掲載

SLEIGH BELLS

Writer 伊藤 洋輔

その昔、“2枚目のジンクス”なる言葉が躍っていた。つまりあまりにもデビュー・アルバムの出来がいいと、2枚目で失敗するという意味だが、そんな言葉は死語となりつつあるように、最近のアーティストは良質な2枚目を届けてくれる。やはり莫大な情報を共有できるインターネット時代の自由な解釈なのか、あらゆるアーティストが引き出しを多様にみせ、才能/感性を飛躍させているのはおもしろい。先月、そんなことをふと考えながら目にしたSPIN誌の表紙にはドキッと驚かされた。SLEIGH BELLSのヴォーカル、Alexis Kraussのアップはまるで映画“パルプ・フィクション”のUma Thurmanよろしく、もしくは最近の鬼束ちひろのような、エロティックでスリリングでご機嫌斜め?な目線を投げるその姿に、どこかネクスト・ステージの扉を蹴破ったような、とにかく強烈な“ニオイ”が誌面から伝わるインパクトがあった。こいつはなにかやってくれそうだ、いやが上にも期待してしまう新作(2枚目)だが、よりヴァイオレンスに、ヘヴィに、ノイジーに、ダイナミックに、そしてポップに、SLEIGH BELLSが新境地を切り開いている。

NYブルックリンを拠点としたSLEIGH BELLS。元POISON THE WELLでの活動もあるコンポーザーのDerek Miller(Gt)とAlexis Krauss(Vo)からなる激情男女デュオだ。結成は08年、なんでもウェイターとして働いていたDerekのお店にAlexisが来店し意気投合したのがきっかけだったという。そこからオンライン上にアップした音源がPitchforkやRolling Stone、The Village Voiceなど多くのメディアに取り上げられ一躍注目を集める。クラウド・サーフィンに象徴される全身で繰り広げたハードコア・パフォーマンスまでも多くのアーティストも刺激したようで、レフト・フィールダーのM.I.A. (通称スーパーボウル・ファッカー)までも虜となり、熱烈なラヴ・コールを送り彼女が立ち上げたレーベルN.E.E.T.と契約する。2010年にはデビュー・アルバム『Treats』をリリース。この頃には世界中でバズりまくり各国の年間ベスト・アルバム・ランキング上位に名を連ね高評価を獲得した。来日公演が実現したのは昨年1月で、一夜限りのショーケース的な意味合いが強かったものの、トータル30分ちょっとで濃密なパフォーマンスをぶちかまし、ある意味忘れ難いインパクトを与えてくれた。それから度々レコーディングが伝えられていたが、なんとDIPLOをプロデューサーに立て歌姫BEYONCEとのコラボレーションを行なったニュースが伝えられたのは衝撃を受けた。このトラック、なんらかの理由でお蔵入りになったのか未完成なのか詳細はわからないが、公開はされていない。将来的にはリリースが実現してほしいが、そんな経験は大きな刺激となっただろう。2年振りの新作『Reign Of Terror』は最高のディストーション・パーティ・ビート・アンセムとでも呼ぼうか、誰もが踊らずにはいられない良曲が並んでいる。

リード・トラックとなった「Born To Lose」から炸裂しているが、SLEIGH BELLSの魅力はコントラストだ。ディストーション・ギターにデジタル・ビートの轟音はヘヴィ・メタルからエレクトロ・クラッシュをミックスしたようであり、そこへAlexisの美しくも激しい表情豊かな歌声が浮かぶさまは、圧倒的なポップ・ミュージックとして成立している。前作の延長線上にありながらラウドを極め、ポップであることを忘れないバランス感覚はさすがである。オススメ爆音ポップは「Crush」に「Comeback Kid」かな? スウィートでメランコリーな「End Of The Line」も素晴らしい。シンプルな構造ながら、あらゆる引き出しを開け楽しませてくれる。“2枚目のジンクス”なんてマジで死語だろう? SLEIGH BELLSは明確なオリジナリティを確立し、迷いなくアグレッシヴなサウンドをぶちかましてくれる。最高だ。Don't think.Feel――さぁ、一刻も早くあなたもこの轟音を浴びてくれ!

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