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BROKEN BELLS

2010年04月号掲載

BROKEN BELLS

Writer 遠藤 孝行

GNARLS BARKLEYで破格の成功を収めた天才プロデューサーDANGER MOUSEことBrian BurtonとTHE SHINSのフロントマンでありソングライティングを担うJames Mercerの2人が新たにバンドを始める。その事を聞いてワクワクしない音楽ファンがどれだけいるだろうか?

しかし“この2人で果たして上手くいくの?”と疑問を持たれる方もいるだろう。確かにDJとしてスタートし、ヒップ・ホップやファンクやソウルを現代にマッシュ・アップし数々のヒットを生み出してきたBrian Burtonと現代のUSインディ・ロック全盛の走りとも言える存在でTHE BEACH BOYS的サウンド・プロダクションを現在に蘇らせたTHE SHINSのJames Mercerとのコラボレーションには音楽性の違いが深く存在するのは事実。しかし完成されたアルバム『Broken Bells』を聴いてみるとそのことはまるで気にならない。とにかくいい曲が並んでいてソングライティングに趣きが置かれたアルバムだと気がつく。そして2人の良さがどこかさりげなく解け合うように輝いている。どのように制作されたのかは2人にじっくりと聞きたいところだが、まずはこの2人の素晴らしいアルバムが完成した事を祝福したい。

2人の出会いは2004年のデンマークのROSKILDE FESTIVALでのこと。その当時から意気投合しいつかは一緒に音楽をやろうと話をしていたそうだ。その後それぞれの活動が一段落したタイミングで今回のBROKEN BELLSが開始された。David Lynchのアート・プロジェクトでの共演はあったもののバンドでの活動は今回が初めて。2008年からJames MercerがLAにあるBrian Burtonの自宅に住み込みながら内密にこのプロジェクトは進められた。なぜ秘密にことが進められたのかは、このプロジェクトが周囲のプレッシャーに晒されないようリラックスして進めるためだったそう。そのことはこの作品にいい影響を与えていると思う。とても飾らず風通しのいい作品が完成されたからだ。

アルバムはリード・トラックである「The High Road」でゆっくりと幕を開ける。ダークでメラコリックなナンバーだが奇妙なシンセサイザーの音色に乗りJames Mercerの歌声がしっとりと暖かく沁み込む。特にラストは霧が晴れていくようにアップリフトされていく、素敵なオープニングだ。続く「Vaporize」ではかき鳴らすアコースティック・ギター音色とJames Mercerの歌声が絡み合うように進んでいくドラマティックなロック・ナンバー。スペイシーなポップ・ナンバー「Your Heart Is on Fire」やインディ・ロック的アプローチの「The Mall and Misery」など色を変えながらアルバムはゆっくりとBROKEN BELLSの世界感に誘い込んでゆく。全体としてはメランコリックで2人が敬愛するDavid Keith Lynch的なダークなテイストのナンバーが多いがどこか暖かさがあり、美しいサイケデリアがある。それはBrian Burtonが奏でるオルガンの音色やストリングスを惜しみなく使用した緻密なサウンド・プロダクションによるものだろう。

しかしこの作品でもっとも惹かれるのは奥行きあるサウンド・プロダクションではなくいつまでも聴いていたいとさえ感じさせるメロディ・ラインだ。それは2人が語っているが目指していたのは新たなサウンドではなく新たな曲を作り出すことだったからだろう。一つの頂点を極めたとも言える2人が改めて目指したのは歌だった。このゴージャスともいえるプロダクションから溢れ出す力強いメロディにはやはり心を奪われずにはいられない。そしてそこには不安定で不透明な世の中でも音楽の力を純粋に信じる2人の姿がある。

理想的な形で進められたこのプロジェクト。それぞれGNARLS BARKLEYやTHE SHINSの活動もあり忙しい2人だが早くも続いての展開が気になるところ。それくらいこのBROKEN BELLSは魅力的だ。このデビュー・アルバムが2010年を代表する1枚になるのはまず間違いないだろう。

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