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INTERVIEW

Japanese

STEREO DIVE FOUNDATION

2022年05月号掲載

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Member:R・O・N

Interviewer:山口 哲生

-ちなみに、過去に悩んだことのある2回ってどんな感じでしたか?

R・O・N:昔、何かの提供曲を制作したときに、何をしてもいい曲じゃないなっていうものしか作れなくて、何回か直した記憶があるんですよね。そしたら面白いことに、そのときに一緒にやっていたエンジニアの人も、ミックスに手こずっていたみたいで。ふたりして"あのときの俺ら、疲れてたね"っていう話で盛り上がったことがありましたね。もちろん、最終的には責任を持って、満足のいくクオリティのものにしましたけど。ハマっちゃってリテイクが多かったり、ミックスの期間がすごく長くなってしまったり、やり直しが多くなってしまった覚えがあります。

-最終的には納得のいくものにしているという。

R・O・N:そうしないと仕事なくなっちゃいますから。"なんかスランプとか言って、締切守らないんだけど"って言われたくないですしね(笑)。

-ですね(笑)。清涼感のある「TRISTAR」と「STORYSEEKER」の間に置かれているのが「Count to three」。途中でジャジーなセクションが出てきたり、リズムが跳ねていたりしますけども。

R・O・N:ここの繋ぎに関しては、ドリーミーなイントロと、ドラムの質感は「TRISTAR」と「STORYSEEKER」に合うようなものにしつつ、"シンベ(シンセ・ベース)が派手な曲"というメモから作っていきました。他の曲でもピアノのサンプリングネタを放り込むというのを節々でしていたので、ちょっとジャジーな感じのピアノを入れてみたところ、これはもうそういうセクションにしちゃおうかなって。サビの爆発力を誘発させるためのセクションとして起用した感じですね。

-歌詞もそういった爆発に寄せている雰囲気がありますね。

R・O・N:この歌詞はギター少女のことを書こうと思ったんですよ。

-ギター少女で、サウンドはジャジーって面白いですね。

R・O・N:なかなかアイロニックですよね。歌詞を書くときにたまにやる手法のひとつなんですけど......例えば、"AKIRA"って漫画あるじゃないですか。あれって、タイトルは"AKIRA"だけど、主人公は"アキラ"じゃないんですよね。主人公は金田(正太郎)とか鉄雄(島 鉄雄)で、アキラはアイコンであって、それをタイトルにしている。そういう考え方を用いた歌詞の書き方というか。だから、サビに関しては、アイコンであるギター少女に語り掛けている感じなんですよ。金田がアキラに対して何かを言っているようなイメージというか。ちょっとわかりづらいかな、ごめんなさい(笑)。

-いえいえ、そんなことないです。歌詞に出てくる主人公を動かすのではなく、アイコンで世界観を作ってしまうのは面白いなと思いました。ギター少女がアイコンなだけあって、音楽的なワードが歌詞には出てきていますね。

R・O・N:そういう部分はありつつも、いろんな形で受け取れるようにはしてますね。例えば、"小生意気な順番にして/安直がいいんだ/テクニックを置き去りにして/歪ませていこうか"というのも、ペダルを繋ぐ順番を気にするよりも、アンプに直接繋いで鳴らしたほうがいいよね。テクニックどうこうじゃなくて、思いっきりゲインを上げて勢い良くみたいな感じなんだけど、これを恋愛に置き換えてもいいと思うんですよ。駆け引きもテクニックもいらないから直接アタックしろよ、みたいな。他にも、これをエロい歌詞と受け止めることも全然いいと思うんです。"サイズ感間違ってないか心配してんの/大丈夫似合ってるでしょ/フィット感確かめ合う敏感な指で/激しくそしてしなやかに"というのも。どんな捉え方をしてもらっても全然いいんですよね。

-"頭を空っぽにして"というワードも、どんな形にも受け止められますし。

R・O・N:そうそう。そういう歌詞を書くことが僕は多いですね。すごく限定的にするときもあるけど、わりと広く受け入れられるものや、自分と置き換えられるようなものにすることが多いし、それぞれで面白さを感じてもらえたら嬉しいです。

-ここまで新規曲についてお聞きしてきましたが、「Pianissimo」については、シングルを切らずにアルバムで、ということでしたので、この曲についてもお聞きしたいです。お話にもあった通り、TVアニメ"フットサルボーイズ!!!!!"のエンディング主題歌になっていて、夕焼け空が浮かんでくるような感じがありますね。

R・O・N:これはもうTHEエンディング曲ですね。昔に作った「Daisy」(2013年リリースのシングル表題曲)路線で作ろう、以上! って感じでした。どストレートにいこうって。

-先ほどの歌詞のお話でいうと、受け取る人がいろんな解釈ができる部分もありつつ、サビの"誰の為でもなくて僕の為だけに/生きてみるのもそんなに悪くないだろ"という言葉に対して思う気持ちは、どの方も近いものがあるんじゃないかなと思ったんですが。

R・O・N:ここの2行はなかなかフックになる言葉かなと思いますね。言ってみれば、すごく普遍的な歌詞ではあるんですよ。わりとどこにでもあるような歌詞ではあるんですけど、サビの一節でこの曲を「Pianissimo」たらしめたのかなと。ただ、ちょっと戻って「STORYSEEKER」の歌詞を見てみると、"誰かのために僕が生きるとして/それが君であって欲しいんだ"って真逆のことを言ってるんですよ。この人大丈夫かな......? って思われてもおかしくない作詞家ですよね(笑)。

-いやいや。一貫性がないのも人間だと思いますし。

R・O・N:たしかに人間は矛盾した生き物ですからね(笑)。

-個人的に、この2行を世の中に当てはめてしまったところがあって。誰かのために何かをすることは、本当に尊くて素晴らしいことだと思うんだけど、あまりにも世の中がそのことにとらわれすぎていて、たまに呪いみたいに聞こえてしまう瞬間があるんですよね。だからこそ、この普遍的な言葉がすごく響きました。

R・O・N:現代を象徴していそうなところでいうと、"そんなに悪くないだろ"って、ちょっと引いている感じ。これはちょっとおこがましいかもしれないみたいなエッセンスも、現代っぽいのかもしれないですね。大手を振って、自分のためだけに生きろよって熱く言うのって、現代に即していないのかもしれないなって。

-あぁ、なるほど。

R・O・N:実際のところ、誰もが熱くいてほしいんですけどね。自分のために時間を使って投資をして自分を育てて、それをそれぞれがやることで、みんなで強くなっていけばいいじゃないかって思うんですけど、そういうのもそんなに悪くないだろうって状況。そういうところが現代っぽさなのかなって思いますね。

-たしかにそうですね。熱い気持ちはあるけれど、ちょっと一歩引いておこうかなという。俯瞰的というか。

R・O・N:提供曲だと、そういう歌詞の発注を受けることもあります。俺は俺でやりたいことをやるみたいな感じの歌詞に対して、直接的に言うよりも、ちょっと回りくどく、示唆するような、匂わすような。"そうするほうが最近の聴いてくれる人は共感をしてくれるんじゃないか"みたいな。ここ最近にも、そういったお話をされたこともあって。

-タイムリーなお話だったんですね。

R・O・N:この曲自体ができあがったのは、結構前なんですけどね。

-R・O・Nさん的にはいかがです? 直接的にぶつけるよりは、示唆する歌詞のほうが好みだったりします?

R・O・N:「Pianissimo」の2行に関して言うと、両手を広げたり扉を開けたり、目を閉じたりする感じじゃない構成で作れている文章だから、いいと思ってます。

-よくありがちなワードは使わずに、けれども普遍的ではあるという。

R・O・N:そういうことですね。その意味で、過去にいいなと思った歌詞として、RADWIMPSの野田洋次郎(Vo/Gt/Pf)さんが書いていた、"誰も端っこで泣かないように"(「有心論」)のくだりがあるじゃないですか。あれも普遍的な単語で面白いことを言っているという意味で、唯一無二の状態を作っている最高のワード構築だと思うんですよね。そういうものを作れるように心掛けていたいです。毎回それを叩き出しまくるというのはなかなか難しいけど、とはいえ意識はしていないといけないなと思います。

-そして、先ほど少しお話にも出てきましたが、ラスト・ナンバーは「JAY」。これはもうアルバムを締めくくる曲を作ろうと。

R・O・N:まさにです。あとは、「Pianissimo」から続く曲なので、"ハチロクのバラード"というのと、変なところを作ろうというのは最初から決めてました。でも、最後がちょっと迷ったんですよね。"明日また会えるならば/僕は..."で終わらせているんですけど、明日また会えるなら、僕はあなたを迎えに行って、ああしてこうしてという感じにするのも面白いかなと思ったりもしたんですが、近年、長い曲って聴いてられないと思うんですよ。

-それはR・O・Nさんご自身が?

R・O・N:僕自身もそうだし、世の中の曲も4分以上とか減っていますよね。

-海外だったら2~3分台ぐらいですよね。

R・O・N:びっくりするじゃないですか、2コーラスやって終わりとか。ともすれば"手抜き?"って思われちゃうような状態。ただ、サブスク時代の世の中で、いろんな人の耳にとまって、聴きやすくてパっと終わって何回でも聴きたくなるものって、わりと大事なポイントだと思うんですよ。だから、なるべく4分は超えたくないんです。

-アルバムの最後の曲となると、いわゆるJ-POPとか昔の考えで言うならば、超壮大で7分尺ぐらいの曲が来ることもありますけど。

R・O・N:ありますよね(笑)。僕も昔7分の曲作りましたよ。

-そこは今の形にしたかったし、且つ歌詞の最後を空白にしたのも、限定しすぎないものにしたいというところなんでしょうか。

R・O・N:その通りです。だから一挙両得ですよね。長くならないし、想像の余地も残すしっていう。

-余韻のある感じで終わっていくのも美しいですからね。今作も非常に濃い1枚になりましたが、6月にはアルバムの発売を記念したオンライン・ミニ・ライヴが決まっていて。

R・O・N:曲をどうするかは相談したんですけど、まだちょっとわからないところが多いんですよ。

スタッフ:前回のライヴとは違った見せ方をしていこうかなと思っていて。チームとして、新しいことができるように準備している段階です。

R・O・N:だから、まだどういう方法でライヴをするのか、まったくの未定です。ちょっと心配してますね(笑)。まぁどうにかしてくれることでしょう!

スタッフ:はい、一緒にどうにかしようと思ってます(笑)。

-他にも今後の予定はいろいろと決まってきているんですか?

R・O・N:スケジュールを見るといろいろ書いてあるんですよ。この月にこういうことをしますとか。

スタッフ:裏ではいろいろ考えています。実は2023年でデビュー10周年なんです。これはまだR・O・Nさんと細かい話を詰められていないのですが、記念の年なので、ここからいろんなことを具体化していけたらいいなと思っています。

R・O・N:怖いねぇ(笑)。

-戦慄してます?

R・O・N:いや、ニヤニヤしてます(笑)。どうなるのかわからないので。

スタッフ:それを一緒に考えるのがチームですから。今はその基盤を考えているところなので、すぐにR・O・Nさんにところにドン! って行きます。

R・O・N:まぁ、とにかく頑張ります(笑)。